先頃単行本第一巻が発売された紙魚丸の『惰性67パーセント』(集英社)は「ウルトラジャンプ」で連載中の作品。描かれるのは、大学生の日常という定番シチュエーションだ。
物語は、美大生・吉澤みなみの部屋を中心に展開していく。でも、この作品の面白いところは美大生という設定が、ほとんど生かされていないこと。美大生といえば、思い浮かぶキーワードは「サブカル」「オシャレ」「リア充」等々、大学のヒエラルキーをピラミッドで表現するならば、東大よりも上に位置しているハズだ。
しかし、物語のヒロインである吉澤は、そんな世界とはほど遠い。絵画科のアトリエに居場所をつくれず、入ったのは漫研。しかも、その会誌にエロマンガを描いているのだという。もはやオシャレなキャンパスライフはおろか、人生も詰んでいそう。
そんな彼女の目下の悩みは、エロマンガを描いているというのに経験がなくて、ポコチンがリアルに描けないということ。そんな悩みを友人の北原に相談したところ、彼女は男子学生の伊東と西田を伴って、吉澤のアパートにやってきたのであった。
かくして、人生で初の“一人暮らしの部屋に男子がやってくる”理由が「ポコチン描写監修会議」という忘れられない経験をすることになった吉澤。そのまま、彼らは一番大学から近いという理由だけで、毎日のように吉澤のアパートに入り浸るようになるのである。
そして、各話で描かれるのは、惰性の中で起こる「ありえねえだろ!」と突っ込みたくなるようなエロいハプニング。二日酔いで寝ているところに3人がやってきて、パンツを履いていなかったことに気づき悪戦苦闘。かと思えば、下着の着替えがなくてネット通販で勢いで買ってしまったストッキングとガーターベルトで男子に妙なムラムラを与えたり。とにかく収録された話の8割以上が、エロハプニングである。でもね、エロいハプニングによって男子がムラムラしたりもするくせに、まったく恋愛要素がないのである。
そのくせ、4人でスキー旅行に出かけたりしている。
スキー旅行といえば、リア充な大学生の特権かと思いきや「昭和の大学生みたいなことを」というセリフが飛び出して、楽しいのか楽しくないのか、まったくわからない。
それでも、この作品が真に優れているのは、大学生の日常を描いているはずなのに、まったく大学のシーンが出てこないこと。レポートで悩んだりするシーンはあるにもかかわわらず、キャンパスを描かないことを徹底しているのだ。おまけにDSやパソコンなどをいじっているシーンはあるのに、誰一人スマホを触ったり、SNSに投稿するという、現代の大学生には当たり前の日常は登場しないのだ。
何より、4人でトランプを楽しんでいるシーンなんて、まったく昭和の香りしかしないではないか!
そういえば、3人が吉澤の部屋に来るときも、アポなしが当然。最近の大学生だったら事前にLINEか何かで連絡しないと「空気読めないヤツ」になるんじゃなかろうか。
そう、この作品は現代を描いているようでありながら、実はノスタルジックな過去を描いていたのである。
今から20年ほど前の、せいぜいプレステかセガサターンが最新の電子機器だった時代。スマホでいつでも連絡が取れることもなく、SNSで自分を飾る必要もなく、現代にはありえないほどダラダラと過ごせた、あのころ。
そう、この作品はエロ要素で釣りながら、実は暇を存分に楽しむことができたであろう40歳よりも上の世代にガツンと響く感動作だったんだね! なんて、恐ろしい作品だ!
(文=ピーラー・ホラ)
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