『黙示録アリス』妹さえいれば、世界なんてどうでもいい! ゲスくて偏屈な主人公がかっこいい!

 先ごろ、ひとまず完結したコミカライズ版『黙示録アリス』(原作:鏡貴也、漫画:ようこ/メディアファクトリー)。鏡貴也氏といえば、ともにアニメ化を果たしたライトノベル『いつか天魔の黒ウサギ』や『終わりのセラフ』などが有名だが、この『黙示録アリス』は鏡氏の諸事情により、なかなか原作の執筆が追いつかないということで、原作2巻までのコミカライズ版(全4巻)までとなっている。「続きは原作で読んでね!」感が強いのは、『いつか天魔の黒ウサギ』の時もそうだったが、鏡氏は2カ月に1作品仕上げるほどの速筆家であるにもかかわらず、本作が一番良いところで終わってしまったのがもったいない。漫画担当のようこ氏にとっては、初の連載、初のコミックスだったので、あとがきに「漫画版の続きもあるかも? と期待しつつ」とあるように、完全にコミカライズ終了というわけでもないのかもしれない。ここでは、そんな本作を紹介していこう。

 少女だけがかかると言われている最悪の病気「迷宮病」のせいで、世界は壊れてしまっていた。都立吉祥寺高校では、そんな少女たちを殺して世界を救うという授業を行っている。そこへ転校してきた有栖真之介は、「世界なんか正直どうでもいいです」と言い切るゲスい男。実は妹が「迷宮病」になったため、とにかく金目当てに入学を希望したのだったが、真之介の狙いはこの吉祥寺高校を調べることにもあった。そんな中、クラスのヤンキー・火城白に「仲間になれ」と誘われる。学年トップの成績にしてクラスのボスである、水色群青とは犬猿の仲で、群青を出し抜きたいという思いからか、真之介の実力を認めたからか……。真之介は「友情は金で買える」と言い、600万円を要求するが、白はすんなりそれを受け入れた。とりあえずこれで、第1回目の少女討伐は可能になったが──?

 仲間を平気で見捨てようとしたり、従姉妹を邪険に扱ったり、入学面接で教官と戦ったりと、ここまでゲスい主人公もなかなかいない気がするが、しかしこのゲスい性格がブレないところに、微妙な好感を覚えてしまう。妹のこととなると盲目的になってしまうあたり、極度のシスコンであることも確かだ。「迷宮病」を発症した妹の作った最高難度の永久迷宮・通称「黙示録アリス」に侵入するのが、真之介の真の目的。そのためには強力な武器が必要で、さらにそのためには莫大な金が必要。だから彼には仲間や友情、生きがいや恋愛、青春などを謳歌するような暇はないのだ。信じるのは自分自身と金だけ。世界中の誰もが妹を助けようとしない中、真之介だけは妹を救おうとしていた。だから、彼にとって本当に「世界なんてどうでもいい」のだ。ただ、妹さえ救えれば……。

 鏡氏作品の主人公は、たいていにおいて初めは偏屈で孤高である。しかし仲間を得て、それがかけがえのないものに変わり、そのせいで強くなったり弱くなったりする。守るものがあれば強くなれる半面、失いたくない気持ちで弱くなるのだ。真之介も例外ではない。この作品は少年の成長の物語でもあり、世界が滅びる物語でもある。「さあみなさん、少女を殺して世界を救いましょう!」とは、なんて安っぽく陳腐で嫌味なセリフだろうか。それを嫌悪する真之介の心中には、常に妹の存在がある。そして白や群青たちという、認めたくはないが「仲間」という存在。果たしてこの物語はどこへ向かっていくのだろうか? 原作も含め、『黙示録アリス』をぜひ堪能してほしい。
(文/桜木尚矢)

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同じ鏡貴也のライトノベルを原作とするアニメBDもあります

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