『放課後のゲームフレンド 君のいた季節』“残念美少女”ラブコメかと思ったら、ガチで泣けるライトノベル

2015.08.14

 むらさきゆきや(作)と白身魚(イラスト)で綴られるライトノベル『放課後のゲームフレンド 君のいた季節』(KADOKAWA メディアファクトリー)。表紙のリリカルなイラストを見て、誰もが思わず手に取ってしまうであろう一冊です。オビに「ゲーマーのための奇蹟の物語」とありますが、本当に物語は奇蹟です。

 物語の軸になるのは、MMORPG「クロスレヴェリ」。このゲームはアクションRPGのようで、主人公のリオは持ち前の反射神経を生かして、「上位喰い(ランカーキラー)」の異名を持つゲーマーです。でも、彼が熱心にゲームに挑む理由として、暗い過去があります。その理由とは、4年前に失踪した姉が最後にプレイしていたのが、このゲームだったから。いきなりちょっと重い設定で、物語は始まります。

 そして、本作のメインヒロインは、同じクラスの観月夢亜。彼女は、ガチの「廃ゲーマー」。ゲームのレベルはカンストだけど、テストは赤点ばかり。赤点の罰として体育倉庫の掃除をさせられていた彼女を助けたのが縁で、リオと夢亜は同じゲームの住人であることを知ります。ただ、夢亜の廃ゲーマーっぷりには、リオもちょっと引き気味です。いつでも必死にスマホをいじってゲームに夢中な夢亜。夢中なあまり、リアルな友人は皆無なのです!

 そして、彼女はもはや現実とゲームとの境界線も曖昧です。初めて一緒にクエストをクリアした後、お互いにフレンド登録する夢亜とリア。夢亜は、リアからゲーム内の指輪をもらって、嬉しそうに言います。「これからも末永くよろしくね」と。

 あくまでゲームの中の話だと思っていたのは、リオだけ。翌日、夢亜は学校の教室で「指輪をもらって、私たち将来を誓い合ったんです」と言い出します。驚くリオ。ということは、恋人認定されたのかと思いきや、夢亜は現実でもリオをゲーム内の名前で呼んでゲームフレンドと断言。間違いなくヤバめの女の子です。でも、リオは「悪い子ではないと思うし、一緒にゲームをするのは楽しい」なんて考えて、彼女との関係を深めていきます。

 この時点で、読者はドキドキでしょう。まず、現実で同じゲームを通じて関係を深める相手に出会うことなんて、まずありません。それが、この作品では、いとも簡単に出会ってしまっています。もちろん、現実と仮想との区別が曖昧になっているヤバさはあります。でも、外見の可愛さも相まって、そこも夢亜の魅力になってしまっています。この危険な魅力に男としての性を刺激されない人は、相当の草食系……いや、絶食系でしょう。

 一方の夢亜も、リアルとゲーム内で初めての友達ができたことに、嬉しさを隠すことができません。スマホをお風呂に持ち込んでまで、一時でも長くログインしていようとします。いやぁ、こんな女の子なら、恋人関係になれば全力で愛を注いでくれることは間違いありません。もうひとつ、返事を送るまで延々とメールとかLINEとかを送りつけてくることも間違いないでしょう。

 ……と、そんなことを思いながら、読み進めていた本作。てっきりラブコメだと思っていました。でも、本作はラブコメではありません。この作品、ガチで泣かせる作品だったのです。夢亜の現実とゲームとを混同したような異常なテンション。それもすべて理由があるものでした。彼女は、単なる“残念美少女”の廃ゲーマーじゃなかったのです。ネタバレは慎みますが、物語のラスト近く、夢亜が最後にリオへ送ったメールのあたりはガチ泣き必至です。ラブコメを読んで楽しもうと思ったら、ガチで泣かされるなんて……。こんな花の命のような恋の時間を過ごしたいと、心底思いました。
(文/大居 候)

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