『トイレのテンコさん』最初はどこで笑えばいいのか、わからない…シュールレアリスムなギャグマンガ

 こんなネタが、よく考えつくな~と作者の想像力のアホさ加減(褒めてます)に唖然とするマンガが、画・しまこ美季、原案・不器用なヤンの『トイレのテンコさん』(講談社)。この作品、もともと投稿サイト「エブリスタ」で、不器用なヤン(変わったペンネームだ……)が掲載していた小説・マンガを原案に、電子雑誌「ヤングマガジン海賊版」に連載されている作品だという。つまり、こんなアホネタを増幅させる妙な才能が結集したら、こうなった……と、考えていいだろう。

 物語は、主人公の高校生・藤木神が朝トイレを開けたところ、便器に座って放尿していた、金髪でメチャ可愛いがパンツがダサい美少女、すなわちトイレの天使・テンコと出会うところから始まる。このトイレの天使が人類にどういう恩恵を与えてくれるのかはよくわからない。とりあえず、トイレで紙がなくて困っていたら助けてくれるくらいの役には立ちそうな存在。そして、よくわからないけどハイテンションだ。

 この説明してもなんだかわからない物語に、読者は「これは、ギャグマンガなのか?」「もしかして、作者はここで笑わせたいのか?」……戸惑いながら、シュールレアリスムな世界へと引きずり込まれていく。タイトルからすれば、本作はテンコを中心に展開することが想像できるだろう。ところが、登場キャラがひたすらに濃すぎて、摩訶不思議な作品となっている。そもそも主人公の藤木神は、薄幸の美少女と不良の純愛を描く少女マンガのような恋愛をしたいと考えている高校生。今どき、そんなマンガがどこの雑誌で連載されてるんだよ! と思うが、この世界ではそうした雑誌がちゃんと存在するのである。

 そして、主人公を取り巻く家族も異様。主人公には凜とした姉・ミコと、清純な妹・千夏がいるのだが、ミコは教室まで「お弁当を忘れたでしょ」と届けてくれる優しい姉。かと思いきや、本屋で『ストリップ芸大全』なる本を「極めればなんでも芸術になるのね」と半ば発情しながら読み耽る性癖の持ち主だ。妹の千夏も、幼稚園からミッション育ちで人見知りが過剰に激しい性格。テンコと遭遇した千夏は、勇気を出して彼女と心を通じ合わせようとする。そして、心が通じ合った二人は、指と指を重ね合わせるシーン、背景には懐かしの『E.T.』らしきシルエットが。

 この時点で読者は、さらに混乱するだろう。いくら『E.T.』が往年の名作映画とはいっても1982年の作品である。今さら、こんなネタを持ってくるなんて、想定している読者年齢はいくつなんだろうかと。

 こうして物語は読者を混乱させつつ「マヨット島からやってきた転校生」とか、よくわからないネタを次々と仕込んで、独自のワールドを展開していく。世界観がシュールすぎて、多くの読者は一回読んだだけでは笑えないと思う。けれど、もう一度読み直すと、次第に気づいてくる。「この作品の笑いのツボはここだ!」と。

 そう、この作品は読者の笑いに対する感覚を拡大させる、妙な催眠要素を含んだ作品だったのだ。読後の感想として最も驚くのは、こんな特殊な作品を連載作にしようと思った編集者の決断だ。
(文/是枝 了以)

トイレのテンコさん(1) (ヤンマガKCスペシャル)

トイレのテンコさん(1) (ヤンマガKCスペシャル)

”トイレットラブコメディー”だったらしい…。

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