主人公がひたすらビッグマウスなマンガ『自称監督』 暴走の先にあるのは破滅か、それとも…

150721_zisyoukantoku.jpg自称監督第1巻(小学館/険持ちよ)

 創作の世界にはジャンルを問わず、俺ってスゴイ才能を持っているんだよ! と勘違いしたままオトナになっている人が一定数いる。マンガ『自称監督』(小学館)は、リアルに白い目で見られている夢追い人の姿を思い浮かべながら読める作品だ。

 物語の主人公・山田海斗は、17歳の高校生。彼の夢は映画監督になり、世界を驚かせる傑作を生むこと。この主人公、“さとり世代”とは正反対な自信家だ。両親に大学はどうするのかと聞かれれば、映画監督になるので大学は不要という持論まで展開。一日に一本は映画を観て“勉強”しているから、大学は不要なのだそうだ。

 のっけから、猛烈に暴走する若さ。とはいえ、両親が心配するのも当然。結果、芸術大学映画学科の受験を勧められる。そして、隣に住む幼なじみ・島本飛花も芸大を受験するということで、一緒に芸大予備校へと出かけることに。そこでもビッグマウスな発言をしまくる海斗は、こちらも芸大受験のため予備校に通う人気の清純派女優・案野有紀と火花を散らす。その結果、海斗の作品が賞のひとつでも取れたら有紀がヌードで海斗の作品に出演する、との賭けが始まる。

 ここからは、「いや、ねえよ!」と思わずツッコミたくなる海斗の暴走が続く。そして、この暴走っぷりこそが、本作の見どころだ。

 まず、撮影の準備段階から、海斗は飛花が持ってきたハンディカムでの撮影を拒否。そして、「35ミリフィルム」で撮影すると宣言する。……もし、アマチュアで映画を撮る機会があったとして、こんな宣言をするヤツがいたら、絶対に映画は完成しないから、フェードアウトすることをオススメする。念のため、コダックの価格表を見てみると、映画用の35ミリフィルムは400ft(5分程度)で3万9160円だ。もちろん現像代は別。そもそも、35ミリ用のカメラなんて、どこかで貸してくれるのか、筆者もわからない。しかし、海斗は堂々と言い放つ。

「昨日、映画会社東映にメールで連絡しておいた」

 もはや世間を知らない高校生という枠を超えて、単なるマジキチだ。

 そんなこんなを経て、夜の学校を借りての撮影が始まる。しかし、スケジュール表すらない中、海斗はヘリで空撮したいとか、手ブレがイヤだからレーンと台車(線路みたいなのを敷くアレ)を用意しろなどなど……! そして、無茶な要求にいよいよ怒った有紀に逆ギレもする。

「お前はスタッフの機嫌と、作品の出来……どっちが大切なんだ!!!」

 ……どっちも大切だから、実際の撮影現場にはプロデューサーがいる。

 こうして撮影はワンシーンも終えることなく破綻。その後も、予備校での絵コンテの課題には何も書けず、プライドをズタズタにされたりするが、海斗のビッグマウスは終わらない。自分のふがいなさに打ちひしがれても、延々と世界から賞讃を受ける自分を夢見続ける。

 こいつには破滅する未来しか見えない……と思うだろうか?

 ところが、こんな出来るならば関わり合いたくないマジキチに、幼なじみの飛花だけでなく、予備校で出会った仲間たちは何かと協力してくれる。無茶な発言ばかりなのに、なぜか周囲を巻き込んでしまう、というのは一種の才能だ。

 作品中では、有紀の母親の口を借りて「今どき監督なんて、お飾りよ」と、スタッフと役者が揃っていれば映画は完成する、という事実も示される。これは本当で、助監督とカメラマンが一流なら監督は座っているだけで映画は完成するものだ。海斗は周囲を巻き込む妙な才能で、この先も世の中を渡っていけるかもしれない……。さて、この物語はどんな方向に進んでいくのだろうか?
(文/是枝 了以)

自称監督(1) (少年サンデーコミックス)

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監督の人間性は問わない、というのも一理あるかな。

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