「乳首」「全裸」はなし!? 復活した伝説のお色気マンガ『いけない!ルナ先生』『Oh!透明人間』コラボ読切の中身は…?

「はずかしいケド わたるのためだもん……」

 1980年代に「月刊少年マガジン」(講談社)で連載され、若者たちのハートと股間をわしづかみにした『いけない!ルナ先生』。その伝説的お色気マンガが創刊40周年企画の一環として、27年もの沈黙を破り同誌8月号(7月6日発売)に蘇った。しかも同時期に連載されていた『Oh!透明人間』とのコラボ読切&作者インタビュー付きという豪華な構成だ。

 奇跡の復活劇を耳にして、まず筆者が期待したのは「当時の過激描写がどこまで再現されているか?」「有害コミック規制運動(※後述)への憤りがインタビューで語られるかどうか?」の2点。その答えを語る前に、当時のお色気マンガを取り巻いていた状況を振り返ってみたい。

 上村純子氏による『いけない!ルナ先生』は、1986~88年にかけて連載された作品。母親を亡くした中学2年生・わたるのダメ人間ぶりを心配し、女子大生家庭教師のルナ先生があの手この手で“エッチな個人授業”をする物語だ。たとえばエビフライの揚げ方を教えるのにルナ先生自身が下着姿になり、肌に直接衣やタマゴを塗りこまれる様子などがお色気たっぷりに描かれている。ルナ先生は毎回のように全裸にされるが、わたるが鼻血を噴き、気絶してエピソードを終えるため、性行為のシーンはない。

 中西やすひろ氏による『Oh!透明人間』は1982~1987年の連載作品。主人公の透瑠は美人3姉妹が住む家に下宿している高校1年生。ある日“イクラを食べると透明人間になれる”と気づいた透留は、その特異体質を生かして覗き趣味に勤しむ。覗きといっても陰湿さはなく、メインヒロインの良江との仲を深めていくラブコメ作品として展開する。極度に興奮すると透明化が解除される設定のため、こちらも性行為のシーンは直接描かれていない(終盤に、それを暗示する場面はある)。

 1980年代は表現規制が緩かったこともあり、さまざまな雑誌にお色気マンガが掲載されていた。同じ「月刊少年マガジン」では上記2作のほか、『修羅の門』で名を馳せる前の川原正敏氏が『パラダイス学園』を連載。ライバル誌の「月刊少年ジャンプ」には『瞳ダイアリー』(小原宗夫)や『ライバル』(柴山薫)などが載り、あの「週刊少年ジャンプ」ですら『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』(萩原一至)に性行為ギリギリのシーンが描かれるなど、枚挙にいとまがない。多くの少年誌で、今の『To LOVEる -とらぶる- ダークネス』レベルの描写が許されていたといえば、当時を知らない人にも伝わりやすいだろうか。

 そんな流れが大きく変わったのは、1990年から活発化した有害コミック規制運動だ。1988~89年に発生した連続幼女誘拐殺人事件をきっかけに、ホラー・ロリコンをはじめとした“オタク叩き”が加速。この運動はマンガの表現規制にまで及び、上村氏の作品は“性描写の露骨な有害コミック”筆頭格としてメディアで激しく糾弾された。『いけない!ルナ先生』の後に連載した『1+2=パラダイス』は最終巻が出ることなく絶版。その後の上村氏は、体調不良もあり、執筆活動から徐々にフェードアウトしていった。現在は結婚し、マンガ家を引退していることが、本人の口から語られている。

 こうした経緯も踏まえ、復活したコラボ読切の中身を紹介していきたい。

■復活読切で“乳首券”は発行されず


「月刊少年マガジン」8月号に掲載された特別読切のタイトルは『Oh!透明人間×いけない!ルナ先生』。作画は今なお現役である中西やすひろ氏が担当し、上村純子氏は協力としてクレジットされている。ただし扉ページのルナ先生だけは上村氏が自分で描いたそうだ。ボリュームは全32ページ。

 中西氏が作画を務めることから、登場キャラクターは『Oh!透明人間』がメイン。学校の成績が下がってしまい悩む透留と良江が“すごく優秀な家庭教師”として評判のルナ先生を自宅に呼ぶところから始まる。『ルナ先生』側の主人公・わたるは今回出番なしだ。

 いざ勉強を始めたものの、やる気のない透留のせいで良江も不機嫌に。「このままじゃDV(暴力)関係になっちゃう!」と、毎度おなじみの妄想力を発揮したルナ先生がムードを変えるため、得意の“エッチな個人授業”を開始する。ブラジャーやパンティに数式を書き、それをめくった下の素肌には正解が書いてある、という仕掛けで透留のやる気を起こさせる作戦だ。大胆なルナ先生をもっと間近で見たい透留はイクラを食べて透明化し、覗きを楽しむ。やがてルナ先生に影響された良江も自分の下着に問題を書き始めるなど、お色気展開はエスカレート。ページ数の少なさを感じさせない濃密な読切だった。

 コラボということで別作品のヒロインが同じコマに描かれるわけだが、さすが中西氏はベテラン作家だけあり違和感がない。ストーリーも、うまく両作品の「透明化」「個人授業」という持ち味を生かせている印象だ。

 一方、直接的なセクシー描写――かつて当然のようにあった「乳首」および「全裸」――は消えてしまった。さすがに編集部も過去と同じ轍を踏むわけにいかないだろうから、過激描写をある程度控えるのは仕方ない。パンチラ、パンモロ、乳揺れを増量し、さらに若干の百合要素をプラスするなど、代替表現をフル動員してトータルでの満足感を保っているところは評価したい。

 古くからのファンも、当時を知らない世代の人にも、ぜひ一読をオススメしたい完成度だった。

■作者インタビューは終始おだやかムード


「月刊少年マガジン」8月号にはコラボ読切のほか、両作者へインタビューした記事も掲載されている。中西氏は『Oh!透明人間』を自身のライフワークとして、今回の読切作品もノリノリで楽しく描いたことを明かした。上村氏はすでに現役でないことから読切への言及は控えめだったが、「かわいいルナ先生を描いてくださってありがとうございます!!」とコメント。ずっとルナ先生を好きでいてくれているファンにも惜しみない謝辞を述べていた。さらに互いの作品について好きなところ、自分の作品の気に入ったエピソードを語るなど、インタビュー記事からは終始おだやかなムードを感じた。 

 また、上述した記事とは別に、創刊40周年記念として“上村氏インタビュー”といった体裁の短編マンガも同誌に掲載されている(調査&作画:宮崎かずしげ)。ショートヘアの似合う朗らかな女性として登場した上村氏は、デビューまでの経緯、連載時の印象に残った出来事、現在住んでいる田舎の暮らしぶりなどを披露した。

 自身の作品を絶版に追い込んだ90年代当時のコミック規制運動については、2つのインタビュー中で一切触れられなかった。そもそも創刊40周年の企画で話す必要性が薄いこと、また編集部自体に落ち度はなかったことから、当然といえば当然なのかもしれない。

 余談ではあるが、有害図書指定や一連のマンガ規制に関する上村氏の主張は、今月号の「月刊少年マガジン」ではなく、絶版数年後に松文館から復刻された単行本『いけない!ルナ先生』およびその前身の『あぶない!ルナ先生』に詳しく記されている。

 作品内容は講談社での連載版と同じだが、表現規制に反対する描き下ろしマンガが収録されている点が大きな違いだ。その中で上村氏は自身の作品を「おもに中学2年生を読者として想定して少年マンガ誌に連載していた」「18歳未満の読者を楽しませたくて(キャラクターは)生まれてきた」と主張。性的な描写が多いというだけで理不尽に規制されたことに対し強く抗議していた。

 「性犯罪を犯す人間は(マンガの影響ではなく)基本的人格に問題がある」「18歳未満であっても性的娯楽を楽しむ権利はあるはず」といった上村氏の言葉は、最前線でバッシングを受けてきた当事者だけに重みがある。アニメ・マンガなどの表現規制について議論がかまびすしい2015年の現在、思いがけず復活した『いけない!ルナ先生』を通じて、あれこれ調べてみるのも勉強になりそうだ。
(文/浜田六郎)

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数式プレイとか、レベル高い…

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