“ダークなハーレムファンタジー”とはこれいかに? 骨太なストーリー『聖骸の魔女』

150622_seigai.jpg聖骸の魔女』第1巻(少年画報社)

 各所で「ダークなハーレムファンタジー」と紹介されている、田中ほさな著のマンガ『聖骸の魔女』(少年画報社)。“ダークなのにハーレム”とはこれいかに? と興味を持っている人も多いのではなかろうか。読んで驚くだろう、間違いなくダークだけどハーレムだ。

 本作の舞台となるのは、現実の15世紀によく似た世界。この世界のこの時代、ローマには世界宗教であるクレド教の最大宗派である「カソリック浄会」が拠点を築いていた。宗教の名前などは架空のものとしているが、設定はほぼローマ教皇を中心とするカソリックそのものだ。登場する兵士達の服装は、現在でもローマに行けば見ることができるスイス衛兵に似たもので、拠点となる「聖天使城」はバチカンの隣にあるサンタンジェロ城、そのままだ。

 そして、この世界では「浄皇庁」を中心とした人間と魔女との間に戦争が勃発していた。物語の主人公は、異端の書を学んできた修道士ニコラ・エスカリバ。彼は幼い頃、村を魔女に襲撃されて両親を失い、当代の「浄皇」ヴァレンチナを母親代わりとして育ってきた。

 そんな彼が、背教者を収容する「贖罪監獄」に眠るといわれる魔女の存在を確かめてくるようにと、浄皇より命じられたことから、物語は始まる。「魔女の鍵」を渡されたニコラは監獄へと立ち入り、その奥底で「最初の魔女」を見つける。が、それは単なる骨だった。彼女を蘇らせる手段があるはずだと持ち帰った時、浄皇は魔女の襲撃にあって敗北しかかっていた。浄皇の命と引き換えに「最初の魔女」を蘇らせることを強要されるニコラ。まだ魔女復活の方法すら掴んでいない彼は、自分のふがいなさに涙を流す。だが、その時に気づく。「最初の魔女」の骨で、唯一欠けている左手薬指の骨。そして、「魔女の鍵」こそが、その薬指の骨だと。その骨を置いた途端「聖約(プロポーネル)」が成立し、「最初の魔女」エゼルバルドは蘇ったのだった!

 もうおわかりだろう。この物語では「聖約(プロポーネル)」した魔女がニコラの味方となり、彼を守って戦う。しかも魔女の祈る異教の神は供物を求めるが、その供物はエゼルバルドの場合、ニコラが流した涙なのだ。そして、後々明らかになるが、魔女にとっての「聖約(プロポーネル)」とは結婚とイコールで、妻が夫を守って戦うということとなる。加えて、魔女は供物を受け取る(エゼルバルドの場合は、ニコラの頬に流れる涙を舐め取る)と「女神変成(アドベント)」(変身)して敵を倒す。これだけでも、なにかワクワクしてしまうツボを絶妙に突いてくる。

 第一話では、このてんこ盛りな設定を混乱させることなく描ききった。そして第二話からは、エゼルバルドと同じく「贖罪監獄」の奥底で眠っている「最初の魔女」が、まだ11体もいることが明かされる。エゼルバルドからも浄皇からも新たな鍵の使用を禁じられたニコラだが、新たな魔女の襲撃に際し、自らの流れる血を供物に新たな「最初の魔女」ウプスラを復活させる。

 かくして始まる、三角関係なハーレム。しかし、ダークな物語だけあって、楽しくはならない。異端審問にかけられたニコラは絞首刑に処せられてしまうものの、もちろん、それは策があってのこと。死んだこととなったニコラは、魔女の力を使い、悪しき魔女を狩るために旅立つことになるだった。

 女浄皇は美女、主人公も使命にはひたむき、と申し分ない設定だが、物語の中で語られる解説からもすでにダークな雰囲気。この世界における「魔女」とは異教の神を信じるものということで、主人公側にも色々と闇があることを感じさせてくれる。エゼルバルドが「浄会との約定で眠っていた」という一方、多くの魔女が人間と対立することを選んでいる。こうした謎は、これから明かされていくことになるはずだ。

 今回のレビューにあたって、本作の設定を解説するのはややこしいと感じたが、実際に読んでいる最中に混乱することはない。その理由は、登場するキャラが魅力的に描かれているからだろう。第1巻の時点で全12人の「最初の魔女」のうち3人(ひとりは敵のよう)まで登場しているが、残りをどういう形で描いていくのか、今後に期待したい。

 なお、単行本の表紙はえらく薄着なエゼルバルドで、本編中では浄皇の服装がほとんど痴女。この宗派が多数の信者を獲得している理由は、いったいなんなんだ……?
(文/是枝 了以)

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