現代日本の現実に対するアンチテーゼか…!? “革命”を描くマンガ『REVOLT』

2015.06.24

REVOLT第1巻(KADOKAWA 角川書店/原作・草下シンヤ 漫画・高木秀栄)

 

 最近流行のさまざまな社会運動(名指しすると炎上しそうなので、あえてどれかは書かないが、声の大きいすべてのもの)に乗れない人々の溜飲を下げるマンガが登場した。原作・草下シンヤ、漫画・高木秀栄による『REVOLT』(KADOKAWA 角川書店)だ。

 まず、あらすじを解説していこう。物語の主人公の高校生・成瀬アキラは、自分を求めてくれる、ここではないどこかを求めていた。父親が死んで以来、母親はショックで酒に溺れ、受験勉強にしか興味のない同級生も教師も、彼に生きる意味を何も与えてくれない。唯一、幼なじみの三原宝珠が話しかけてくれる以外、アキラはゲームの世界に没頭していた。

 そんな彼のスマホに送られてきた謎のアプリ『REVOLT』は「あなたには世界を救う力がありますか?」「救う力が欲しですか?」と問いかける。不審に思いながらも始めたゲームは、単なる戦術シミュレーションのように思えた。ミッションをクリアし、ゲーム世界の中で革命を成功させた晃だが「ゲームの中の現実に…逃げていただけ…か」と、無常観にとらわれる。

 しかし、あてどもなく街を歩いていたアキラは、駅前のスクリーンに映し出されたニュースを見る。そこでは、ゲーム内でアキラが「民衆に与えて…好きに処刑させる」と決めた独裁者が、革命で打ち倒され、処刑される姿が報じられていた。

 そう、『REVOLT』は革命指導者の適正を持つ者を探すアプリ。そして、それを開発した企業、すなわち革命を輸出する会社「スヴェート」は、アキラをスカウトするべく姿を現す。ゲームだと思っていた自分の選択によって、大勢の血が流れたという現実に混乱する晃。しかし「室長」は冷静に語りかける。

「これが革命だとしたら……それは果たして罪になるだろうか」
(中略)
「我々の仕事は戦争を売ることではない。世界に平和をもたらす仕事」
「最後にもう一度聞こう……成瀬くん。君はこの世界を……救いたくはないか……?」

 混乱のあまり気を失ったアキラは、自宅の前で目が覚める。昨日の出来事の現実感のなさに困惑しながら登校した彼の前に現れたのは、昨日出会った「スヴェート」のメンバー。金髪眼鏡少女のソフィア。表向きは留学生、実態はアキラの監視役として学校に転校してきた。

 それでも悩んでいたアキラだったが、アフリカで植林活動をしている宝珠の父親が西アフリカで蜂起した軍閥の人質となったことを聞き、自らが指導者(コマンダー)となることを決意するのである。

 おわかりだろうか。この作品は、これまでの“否応なしに戦いに巻き込まれる”とか、“傭兵や戦士の類いになることを決意する”というプロットを越えた、新しいタイプの物語なのだ。強大な敵や謎の黒幕を倒すのではない、革命を成功へと導くという展開がロマンを与えてくれる。

 この作品が秀逸なのは、革命において、主人公・アキラが後方から指示を出すだけではないことだ。コマンダーとして初めての作戦。アキラは早くもゲームとは違い、自分の判断で大勢の人の命が左右されることに覚悟を決めている。

 宝珠の父親を無事に救出するための最良の作戦には「スヴェート」の戦闘部隊も命を張らなくてはならない。「(自分たちは)ゲームの駒じゃねえ」と憤るメンバーに、アキラは「オレの命令が不服なら今ここでこのナイフでオレを殺せ」と叫ぶ。

 作者が意図しているかはわからないが、この作品は、現代日本のリアルな現実に対するアンチテーゼを突きつけている、と筆者は思う。国会で審議が続く安全保障法制をめぐって「戦争法案反対」だとか「護憲」だとか「ファシスト安倍を倒せ」といったスローガンが渦巻いている。しかし、そうした現実が見せるのは、単に敗戦後70年の平和という甘い汁を吸い続けたいという願望。あるいは「どうせ死ぬのは自衛隊員であって、自分たちではない」という楽観が見え隠れする、ガス抜き的な社会運動の実態だ。そこには、変革への希望は何もない。アメリカを始めとした強大な国家を打ち破ることへの希望が失われた現代において、ガス抜き的運動で満足してしまう人々が多数を占めてしまうことは否めない。

 しかし、この作品はフィクションを超越して、“革命”という民衆の本来求めるべき希望を提示する。そしてアキラの口を借りて、革命には前線と後方の区別などなく、自分の立つところが最前線なのだと教えてくれる。

 歌って踊って社会が変わると思い込んでいる人々に絶望にも似た感覚を覚えるなら、まずはこの作品を読んで溜飲を下げるといいだろう。
(文/昼間 たかし)

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