4コマらしく軽い“ちょっといい話” 作者の人柄が伝わるマンガ『ヒゲとセーラー』

150619_higetosera.jpgヒゲとセーラー』第1巻(芳文社/桐原小鳥)

 タイトルにぐっと引き寄せられたマンガ『ヒゲとセーラー』(芳文社)第1巻をご紹介します。

 作品を売る要素として、タイトルは誰もが悩むもの。この本のあとがきにも書かれていますが、この作品は当初「ふたりぐらし ~初ちゃんと僕~」というタイトルでした。それを連載化の時に編集者とさんざん話し合って、現在のタイトルになったんだそうです。しっかり作者とディスカッションする編集者と出会えた時点で、桐原小鳥先生は幸せな人だな、と感慨深くなります。

 さて、「ヒゲとセーラー」というタイトル。まず、ヒゲとはなんだろう? と、未読の方はキョトンとしながら興味を惹かれるのではないでしょうか。このタイトル、物語のメインとなる2人のことなのです。

 本作は4コマ形式。不幸にも両親を失った中学一年生の少女・初が、オレオレ詐欺に引っ掛かって一文無しになった叔父・千尋と同居するところから、物語は始まります。この2人、前に会ったのはずいぶんと昔。その頃は、男勝りでわんぱくだった初に、ふわふわしてお姫様みたいだった千尋。そんなこともあって、お互いがお互いの性別を間違えて覚えていました。なので、家にやってきたヒゲのおじさん・千尋を見て困惑した初は、とりあえず通報!

 そんなハプニングもありながら、2人の同居生活が始まります。物語はほのぼのしているように見えても、けっこうシビア。というのも、2人の生活力は不安そのもの。亡くなった両親の保険金もあるので生活には困らないけれど、千尋は無職。物語の途中から働き始めますが、それでも週2回のバイト生活です。おまけに、最初の頃は2人して料理すらロクにやったことがありません。

 で、なぜこの作品が魅力的かといえば、いろいろ足りていない2人が支え合い、生きようと努力をしているからなんです。千尋は料理の本を買ってきて悪戦苦闘。それに、正社員じゃなくバイトを選ぶ理由は、両親を失った姪のために多くの時間を割こうとしているのだと考えれば、なんか泣ける話です。

 とはいえ、4コマらしく、初と一緒に歩いていれば通報されるし、保護者として学校に行けば取り押さえられます。

 そんな本作、ちゃんと水着回もあります。初は中学生なのでプールの授業があって水着を買いに行くんですが、問題となるのは、お着替えタオル……身体を覆って着替える、男子にとっては邪魔なアレです。初は「着替えにつかうだけですし」とシンプルなものを選びます。しかし、千尋は裁縫なんかやったこともないのに、初の友達の母親に作り方を聞いて刺繍、肩紐の立派なものに仕上げてあげます。この献身はなんなのでしょう。思わず、目から謎の水が流れ出てしまうじゃないですか!

 この作品の魅力は、ともすれば過剰な感動ものになってしまいそうな題材を、4コマらしく軽く読めるように上手く料理していること。なので、読後には幸せ感だけを残してくれます。ここまで“ちょっといい話”に昇華できているのは、作者のマンガに対する愛? いや、読者が手に取ってくれることに対する感謝の気持ちが強いのでしょう。きっと作者は、いい人に違いありません。 
(文/大居 候)

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