『ハイスクール・シークレット・サービス!』(水円花帆) 厨二病的妄想が捗るライトノベル

2015.06.25

 先頃発売になったライトノベル『ハイスクール・シークレット・サービス!』(ホビージャパン)は、HJ文庫大賞第一回読者グランプリ優勝作品です。

 この読者グランプリというのは、HJ文庫大賞の最終選考まで残りながらも受賞を逃した作家に担当編集がつき、新たに執筆した作品から選考するというもの。選考方法は、サイトで公開した上での読者投票です。

 つまり、ネットで読者に無料で読んでもらい、出版の是非についての判断を読者に仰ぐわけです。これは、相当シビアな賞に違いありません。なぜなら無料なので、読者は少しでも「つまらない」と思ったら、すぐに読まなくなります。パソコンやスマホの画面上で、いかに読者を飽きさせず、物語の世界へと引きずり込むか……そんな激戦を勝ち抜いたのが本作なのです!

 死闘を勝ち残った作品だけあって、目を引くポイントも多いです。

 まず、主人公・空木晴は凄腕の傭兵という設定。物語は、晴が相棒の燈華・ティアナ・フェーレンシルトと共に、任務のため、高校生として学園へ転入するところから始まります。

 なんだか一種、定番の設定。定番なので、すんなり物語世界に入れます。そして、相棒の名前も厨二病っぽさ全開。メインの読者層である中高生はワクワクするでしょうし、かつて厨二病に罹患していたであろう、もっと上の世代もやっぱりワクワクしちゃいます。

 そして、彼らの任務もわかりやすく、かつそそる設定です。それは、“美少女”であること以外は普通にしか見えない女子高生・榊ユニスを護衛するというもの。このユニスがメインヒロインなんですが、フランス人の血を引いていたりと、次々と読みたくなる要素を投入してくるあたり、芸が細かい。加えて、肝心の文章も読みやすい……いや、読みやすいというより、カッコイイのです! 特に筆者が気に入ったのは、第二章の冒頭、燈華が晴を起こすシーン。

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――緊急事態(エマージェンシー)が迫ったことにより瞼の裏が真っ赤に染まった。
 晴はベッドからバネ仕掛けみたいに飛び起きようとして、固い何かに頭を押し付けられていることに気がつき、呻いた。
「おはようございます、晴先輩」

<中略>

「おはよう、……じゃねえ」

 もごもごと言葉が潰れる。晴の頭は、冷たい銃口によって枕に押し付けられている。仁王立ちで、電磁(レール)式ライフルを晴に押しつけている少女――燈華・ティアナ・フェーレンシルトは、ライフルを片手で軽々と担ぎ上げて晴を解放すると、ベッドからひょいと飛び降りた。

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 朝、起きるシーンだけでこれ!

 要は、この作品自体が、多くの男子が中高生の時に妄想する、「学園がテロリストに占拠されたら、俺はこんな風に活躍しよう」系妄想の発展系。だから、気恥ずかしさもあるけれど、物語世界に引きずり込まれてしまいます。俺が求めていた、ここではない非日常は、これだーー! という感じです。

 残念ながら、筆者の通っていた学校はテロリストに占拠されなかったし、傭兵にも外人部隊にもなれませんでした。人生そのものが“主人公”じゃなくて“モブ”でした。でも、だからこそ、こうした妄想全開の作品に心が慰められます。きっと本作が読者のハートを掴んだのは、そんな誰もが抱いている英雄願望を刺激してくれるからでしょう。
(文/大居 候)

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