ヅカヲタ女医の「アモーレ!宝塚ソング」第6回

花總まりさまの歌う「私だけに」に しがらみの中を日々生きる世の女性たちの声なき声を学ぶ

150615_takarazuka_2.jpg2009年5月~6月22日上演の宝塚大劇場月組公演『エリザベート~愛と死の輪舞(ロンド)~』パンフレット

――宝塚ヲタの女医、wojo(ヲジョ)が宝塚の名曲を皆様にご紹介! ヅカヲタ女医の「アモーレ!宝塚ソング」!!

【第6回】
ミュージカル「エリザベート」から「私だけに」

 1996年に宝塚歌劇団雪組にて初演されたミュージカル『エリザベート』の序盤で歌われる名曲。ハプスブルク家が支配するオーストリア=ハンガリー帝国末期の19世紀ヨーロッパを舞台に、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世に嫁いだエリザベートの人生と苦悩を描く。初演時には、死の象徴であるトートを一路真輝が、エリザベートを花總まりが、フランツ・ヨーゼフを高嶺ふぶきが演じた。

 先日、CSで放送されている宝塚歌劇の専門チャンネル『タカラヅカ・スカイ・ステージ』を見ていましたら、とある男役スターさんが「好きな言葉は?」との問いに、「『今日の苦労は明日の楽』『まだいい、は、もうだめ』の2つです」と真面目な顔で答えておられました。「今日がんばれることはがんばっておく」「やるべきことを後回しにするのはだめ」という趣旨だと思うのですが、いまどきのアラサー女子がこんなにもストイックな言葉を吐くでしょうか? タカラジェンヌって、本当にご自身と真剣に向き合い、自分自身と闘っておられるのだなと涙が出そうになります。

 そんなタカラジェンヌの生き様にも相通じるようなある女性の一生を描いたミュージカルが、『エリザベート』。宝塚歌劇団と東宝ミュージカルで繰り返し上演されている人気作品ですが、このほど、2015年6月13日から帝国劇場にて東宝ミュージカル版の上演が開始されました。ちなみに日本の初演は宝塚歌劇団で、その後東宝ミュージカルでも演じられるようになった本作、基本的に筋は同じ、使われている曲も同様です。しかし東宝ミュージカルでは、男性役は本物の男性が演じているほか、タイトルロールになっているエリザベート役をこれまでは代々宝塚の男役トップスターOGが演じていた点が、宝塚版とは異なる点でしょうか。

150615_takarazuka.jpg帝国劇場にて2015年6月13日~8月26日上演の『ミュージカル エリザベート』リーフレット

 ちなみに今回の東宝版では、初めて宝塚娘役トップのOG2人がエリザベートを演じていることも話題に。ひとりは後述する花總まりさん、もうひとりは蘭乃はなさんで、さらに男性の役者さんでは城田優さんやジャニーズJr.の京本大我さんなども出演されており、イケメン好きにもたまらない舞台となっております。というわけで、純粋に宝塚のみで歌い継がれている曲ではないのですが、宝塚ファン心の1曲であることに違いはないと思いますので、今回取り上げさせていただきました。

 さて、舞台はエリザベートの天真爛漫な少女時代から始まります。1854年、南ドイツの自然深き片田舎で育った公爵の娘エリザベートは、ハプスブルク皇帝フランツ・ヨーゼフ1世に見初められ、嫁ぐこととなる。すると、婚礼の翌朝5時に姑である皇帝の母ゾフィーが寝室にやってきて、王宮のしきたりや義務について説くのです。そこに現れた夫に「どういうことなの!」と訴えても、夫は「母の言うことを聞こう」と母の肩を持つばかり。新妻エリザベートの言葉は聞き入れてもらえません。一気に生きることに絶望したエリザベート。夫を退出させ、一人きりになった際にナイフで自死を図ろうとします。しかし、果たせず……。そこで歌う歌が「私だけに」です。

「いやよ 大人しいお妃なんて
なれない 可愛い人形なんて
あなたのものじゃないの この私は」

「義務を押し付けられたら 出て行くわ 私
捕まえるというのなら 飛び出していくわ」

「いやよ 人目にさらされるなど
話す相手 私が選ぶ
誰のものでもない この私は」

 原曲のドイツ語題名を直訳すると「私は私だけに属する」であり、自我礼賛の極みといいますか……そもそもこんなに自己主張の強い人が皇帝なんかに嫁ぐべきじゃなかったんじゃないかと思いますが……。

 1996年の『エリザベート』初演時には、後に12年にもわたり雪組、宙組のトップ娘役を務めることになる花總まりさんが、劇団入団後わずか5年目でエリザベート役を務め、その初々しくけなげなご様子が、この「私だけに」の醸し出す切実さにぴったり合っていたものでした。社会的な立場にがんじがらめに縛られた無力な若い女性が、おのれの自我を叫ぶ……。この『エリザベート』は不動の人気を誇るミュージカルで、たびたび再演されています。2014年にも、創設100周年を迎えた宝塚で花組にて上演され、連日満席の大盛況でしたが、「私だけに」に込められた思いがファンの共感を呼んでいるのは間違いないのではないかと思います。

 特に、家庭の中で妻として母としての役割を背負い、自分のためだけには生きられない、かといって自由になるために家を出て行くことができるわけでもない……そんな一般の主婦の方々の心の叫びを代弁しているのではないかと思うのです。独身アラフォーで、ほとんど自分のためだけに生きているwojoが声を大にして言うのはなんだか空々しいですが……。

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