「伯爵が誘うBL短歌の世界」第2回

死者を悼む歌「挽歌」を詠む……生きる、季節を感じる短歌の話

<『ハイキュー!!』山口忠×月島蛍(山口視点)>
好きだよと小さい声でつぶやいた いつかは君に届くといいな (PN 風空)

【作者による説明】
月島はよくヘッドホンで音楽を聞いている子で、月島に想いをつたえたいけどちょっと踏み出せない山口くんの心境をうたったものです。

【添削例】
ヘッドホンの耳元に好きとつぶやいたいつかは君に届くといいな

【評】
 短歌というのは、詠み人知らずでも、詠まれた時の状況が判らなくても、作品として成立することが望まれます。一首だけでは難しい場合、「連作」にする方法もあります。
 この作品の場合、「ハイキュー!!」の山口君が月島君に向かってつぶやいたという状況を説明しなくても、この一首だけで作品として成立しているので原作のままでもよかったのですが、しかし「ヘッドホンをしている」という状況も詠み込んだ方が更に憑依作品としては強くなるかと思い、このように添削してみました。
 ただし、短歌は定型詩であり、つまりは詩です。詩は散文ではなく韻文であり、全てを語ってしまってはいけません。「文章」ではなく「詩」なのですから。その辺りのバランスは、たくさん詠むことで会得していって下さい。

<『弱虫ペダル』今泉俊輔×鳴子章吉(今泉視点)>
赤い髪 小さい八重歯 細い腕 見つめるだけでおかしくなる (PN 赤うさぎ)

【作者による説明】
“鳴子くんが好きすぎてメンヘラ化する今泉”が好きなのでそれをうたったつもりです。

【添削例】
赤い髪小さい八重歯細い腕見つめてるだけでおかしくなる僕
赤き髮小さき八重齒細き腕見つむるだけで吾は狂へり

【評】
 これもなかなかよくできていますが、字足らずが大変気になったので、結句をいじりました。短歌は結句が一番大切です。字足らずが絶対に行けないということはないのですが、全体の流れ、リズムの中で字足らずにする必然性がない限りは、できるだけ三十一文字に収めましょう。
 また、短歌は基本的には一行そのまま続けて表記します。分かち書きや、テクニックとしての一字空けはありますが、原則は続け書きになりますので、ご注意下さい。
 なお、添削二例目は「例えば文語にしたらこうなる」というものです。でもこの作品の場合は、口語の方が合っているでしょう。

<『DEATH NOTE』夜神月目線>
口づけるようにお前の名に触れる 世界は未だやさしくはない (PN 黒砂糖)

【添削例】
口づけのやうにお前の名に触れる世界はいまだ優しくはない

【評】
 これは作者による説明がなかったのですが、夜神目線ということは相手はLでしょうか? 形は整っていますが、ちょっと雰囲気に流れてしまった感があり、惜しまれます。また、短歌では「如き歌」というのですが、「○○のごとき」「○○のような」という比喩はなかなか難しいとされています。しかしこの作品の比喩は、成功している例だと思います。

<『フェアリーテイル』ローグ×スティング(ローグ目線)>
世界中光をすべて奪ってもあなたを闇に突き落したい (PN 龍羽)

【作者による説明】
 光と闇の双竜、スティングとローグ。謎の未来では豹変したローグだけが悪の存在に…。スティングは、活発で主人公のナツが大好きで…でも、そんなスティングを冷静に見てたローグが豹変して、自分のものだけにしようとするような、そんな妄想です。

【添削例】
世の光すべてを奪ひつくすとて汝を闇に突き落としたし

【評】
壮大なファンタジーの世界を一首に詠み込むのはなかなか難しいとはいえ、世界観はよく表れていると思います。このような題材の場合は、文語のほうが雰囲気に合うかなと思ってこのように添削してみました。

<『僕のヒーローアカデミア』緑谷出久×轟 焦凍(轟目線)>
俺の手で お前の足を 奪いたい 二度と背中を 見ずに済むよう (PN まる)

【作者による説明】
 父親の手前一番でなければならない轟が、普段は鈍臭い出久に抜かれる瞬間、轟は自分の「個性」で出久の足を凍らせられたら…と想像します。それは、彼の背中を見たら、置いて行かれるのが恐いから。だから冷たく当たるんだ!

【添削例】
これはこのままでいいと思います(一字空けをなくして続け書きにすれば)

【評】
 半冷半燃をはじめとする「個性」など作品の世界観を知らなくても、一般的な青春時代のライバルを詠んだ歌として通用する作品になってますね。「背中を見ずに」で走ってるんだということも判ります。ただ、「手」「足」と続くのがちょっと出来過ぎ感があるので、いじるとすればそこになります。

<『アメリカン・スナイパー』クリス・カイル>
銃先の 囚われし君 見つめれば 命刈るのが 優しき務め (PN スモモ)

【作者による説明】
イメージとしては、敵に囚われた愛する戦友が、苦しそうにしている。その苦しみを狙撃で終わらせることも、また愛。

【添削例】
捕虜なりし君をスコープ越しに見て優しき務めを果たさむとする

【評】
 一首に盛り込める内容には限りがあるので、あまり詰め込むとごたごたした感じになってしまい、なおかつ説明調になってしまいます。人間を含めた動物の命を奪うなら「刈る」より「狩る」かとも思いますが、短歌の場合「結論まで全部言わない」ほうがいいというのが原則です(例外はありますが)。ですから命を奪うことまで言ってしまわず、「優しき務め」で戦友を殺すことを匂わすにとどめましょう。なお、この作品は文語調ですので、旧仮名遣いのほうがいいでしょうね。

<『3月のライオン』二海堂くん目線>
7六歩 我が身を賭して 手探るは 君に近づく この歩(ほ)と一手 (PN MYM)

【作者による説明】
『3月のライオン』の二海堂くん目線で、二海堂くんかわいい!という短歌です。

【添削例】
「七六歩」吾が身削りて手探れり君に近づく次の一手を

【評】
 えっと、二海堂君目線で、二海堂君可愛いのですか? 作者が二海堂君を可愛いと思っているのは別として、病身の二海堂君が吾が身を賭している「君」は桐山君のことですよね? 実は将棋や囲碁は全く解らないので、この添削が適切かどうかも自信ありません。

<『火の鳥 黎明編』の猿田彦目線>
我が咎の 徴(しるし)となりし 醜(しこ)つ鼻 くはゆる君を 何と呼ばまし (PN そてつ)

【作者による説明】
『火の鳥 黎明編』の猿田彦目線で、猿田彦とナギの関係がエロすぎる、という短歌です。

【添削例】
吾が罪の徴しなりけるこの鼻をくはふる君をいかに呼ばむか

【評】
 「くわえる」は旧仮名遣いでは「くはへる」、文語だと「くはふ」になります。それにしても渋いところをチョイスしましたね。確かに手塚マンガ、BL目線で見ると際どいのが多いですよね。

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