脳を攪拌される感覚『メタラブ』『束縛愛 ~彼氏を引きこもらせる100の方法~』今、小路啓之がキテる…のか?

2015.06.18

メタラブ』第1巻(講談社/画像左)、『束縛愛~彼氏を引きこもらせる100の方法~』第1巻(秋田書店/画像右)/著:小路啓之

 いま、小路啓之がキテるらしい。なぜなら、5月末に「月刊モーニングツー」で連載中の『メタラブ』(共に講談社)と、「月刊ヤングチャンピオン烈」で連載中の『束縛愛 ~彼氏を引きこもらせる100の方法~』(共に秋田書店)の単行本第一巻が同時発売され、今月頭まで「いま、小路啓之がキテるフェア」が開催されていた。今月20日には大阪でライブペイントイベントもあるらしい。

 現代なのか、未来なのか? 日本なのか、別のどこかの時空なのか? ――本気で読み込まなければついていけない、にもかかわらず、途中で投げ出したくはない。そんな魅力のある世界観の作品を、小路はこれまでも描いてきた。そして、今回発売された2作品も同様だ。

『メタラブ』の主人公は、他人の「ノゾミ」、すなわち相手の願望がすべて見えてしまう大学生・のぞむ。この能力を使って、のぞむは人生を楽しんできた。彼女・めばえの心もお見通しなので、毎日は楽しい。ところが、そんなのぞむの前に現れたのは、「ノゾミ」がまったく見えない大学講師・園希美。なにかと接触してくる彼女と付き合う中で、のぞむは初めて自分の「ノゾミ」、すなわち希美のことが好きだということに気づいてしまう。

 この作品が読者に与えてくれるのは、マンガだというのに何か特殊な効果を使った映像作品を視聴したときの“酔い”である。“酔い”の原因は、まず「ノゾミ」が見える時の効果にあるだろう。立体的な文字が耳にどんどん入ってくる描写と、ニコニコ動画のごとく空間に文字が流れていく描写が、わかりやすくて脳に響くのである。もちろん読者はリアルに他人の「ノゾミ」が見えるわけではない。けれど、作品世界で描かれている「ノゾミ」が、読者自身の脳に直接入り込んでくるような錯覚を覚えさせる。

 なぜ、そんな感覚に陥ってしまうのか? 小路の硬質な線で描かれる作品世界にも原因があるだろう。物語も物語で、冒頭から彼女・めばえとのセックスシーンが断続的に挿入され、「ラブコメなのか?」「妙なSFなのか?」と混乱させられる。

 めばえは、現代ではレアになってしまった自販機中心のコインレストランで働いている。そこでのぞむを出迎える、めばえ。

「ぼひーん!!のぞむ君じゃん
 ニキシー管まぶしい
 オートスナックメケメケへようこそ!!」

 そんなセリフと一緒に、のぞむには「セックスしたいセックスしたい」という、めばえの「ノゾミ」が流れ込んでくる。いったい、この物語はなんなのか? 混乱のうちに没入させられてしまう。作品自体が一種の洗脳装置のようなテイストなのである。物語は、のぞむが自分の「ノゾミ」を気づかされるところで2巻へ続く。これ、完結まで読んだら物語の世界から戻って来られないのではないか、そんな恐怖すら感じさせてくれる。

 一方の『束縛愛 ~彼氏を引きこもらせる100の方法~』も同じく、独特の世界観が特徴。こちらは、掲載誌の編集者の要望か、はたまた雑誌の自由度に依るものなのか、ページをめくるごとに脳髄を貫かれたようなショックを与えてくれる物語だ。TRPG『クトゥルフの呼び声』でいうところの「SAN値(正気度)が下がっていく」現象がリアルで味わえるのである。

 クラスの目立たない女子生徒・ミオリは、生後192カ月の男の子・ユウゴをずっと飼育している。つぶれかけた商店街にある眼鏡屋の空き店舗、ユウゴの家だったところで。ユウゴは両親が事故死して、自分だけが生き残り「家の殻に閉じこもってしまった」。ミオリはそんなユウゴを自分が飼うことに決めた。

 家が競売にかけられそうになった時、商店街の物知りじいさんが金を稼ぐ手段としてミオリに教えてくれたのは、年齢を誤魔化してのエロライブチャットへの出演だ。でも、チャット相手と「直接取引」しようとしたら、公衆便所で首を絞められてボコられる。なんだかんだで、その男をブチ殺して帰宅するミオリのモノローグ……

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こういう時はペットに癒やしてもらうのが一番らしい

ワタシはこの後ペットに獣姦された

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 正直、エロマンガ的に勃起するような描写なんか一切ない。でも「COMIC LO」(茜新社)とか読んでても絶対に感じない「この作品は危険だ!」というアラートが脳内で鳴り出す。1巻を読み終わっても何が起こっているのか理解できないけど……“理解したら危険”な怖さがある。

 2つの作品に共通していえるのは、脳を攪拌される感覚だ。この作品が面白いのかといわれれば……本当にわからない。10年後にも本棚に取っておく単行本かと問われると、違う気がする。

 これまでの作品にもいえることだが、小路ワールドの魅力は思考の処理能力が追いつかないところへと読者を追い込んでくれるところにある。インターネットの発達により、マジキチな出来事がTwitterなどを通じて瞬時に、かつ膨大に入ってきては感覚が麻痺しているような時代に、まだこんな作品世界を構築する人がいたとは! この作品に必要なのは、批評的な解釈でも意味づけでもない。インテリ風味な連中が、そんなことをやりはじめた途端に、この世界は色あせるだろう。このまま、あんまり陽の当たらないところで作品を描き続けてほしいものだ。

 結局、2作を連続して読んだらなんか精神をレイプされた気分になったわけで……。「いま、小路啓之がキテる」のはホントだった……。あまりにすご過ぎるので、この2作は「読者に対する精神的レイプ」といっておこう。 
(文/ビーラー・ホラ)

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