『魔探偵(ウォーロック)×ホームズ』ワトソン君を“文字通り”振り回す! ホームズ×ファンタジー

2015.05.25

  

 ジョン・ワトソンは、シャーロック・ホームズの道具である。

 ――と書くと、熱心なシャーロック・ホームズファン(シャーロキアン)ならば「ああ、ワトソンが自分のことをそんな風に表現していたことがあるね」と思うかもしれない。

 が、この小説に出てくる“ワトソン君”は本当に「道具」だ。それも、ありとあらゆる武器に変身できるめちゃくちゃ強い魔法の道具、多変型「魔装人器(メイガス)」なのである!

 というわけで今回は、世界中で愛され続けている名探偵シャーロック・ホームズと、魔法飛び交うファンタジー世界の掛け合わされたライトノベル『魔探偵(ウォーロック)×ホームズ』(多宇部貞人/電撃文庫)の紹介。

 本作の舞台は、ファンタジー世界のイギリスである。時は魔導暦。かつては強大な魔法をめぐっての戦争が繰り広げられていたものの、一人の男が「世界から魔力を消沈させる」という荒技に出たことでそれも収束している。世界に残された魔法的な力は、限られた魔法資源を機械で補佐しながら用いる「魔導」、そしてさまざまな理由で身の内に「異能」を有する者たちの使う特殊能力の2つだ。

 魔法の力であちこちの空間が折り畳まれたりゆがめられたりしているベイカー街、魔導の力で走る蒸気機関車、その食堂車のメニューに並ぶホワイトマタンゴのポタージュやユニコーン肉のロースト……これぞファンタジーという感じの描写にわくわくさせられる。

 物語の主人公はもちろんシャーロック・ホームズとジョン・ワトソンで、頭は切れるがどこまでも変わり者の名探偵ホームズ、元軍医でしょっちゅうホームズに振り回される常識人タイプのワトソン、という組み合わせの妙についてはもはや説明不要かもしれない。

 が、冒頭にも書いたとおり、今作に登場するワトソンは「魔装人器」というちょっと特殊な存在である。普段は人の姿だが、いざというときは強力な武器に変化してホームズと共に戦うのだ。そしてワトソンを時に剣として、時に槍として振り回すホームズ(普段の生活でもワトソンを振り回している!)は、とある目的のために魔力を秘めた「魔石」を集めている。

 “切り裂き魔(ジャック・ザ・リッパー)”による異能事件を追ううちに、国家転覆を企むグルーナー男爵、そして魔石王モリアーティとの対決を余儀なくされる2人。今後の展開はわからないが、今作は「推理」というよりバトルがメイン。激しい戦いに身を投じるホームズと、その武器(道具)であるワトソン。お互いに複雑な想いもあるらしいが、作中でホームズは言う。

「きみは僕の相棒だ」

 どういう意味で「相棒」と呼んでいるのかは読んでのお楽しみ。二人の関係性の新解釈が見られるのも、『ホームズ』パロディの醍醐味だろう。“推理活劇”としての、まったく新しい『シャーロック・ホームズ』シリーズの開幕だ。

 と、先ほど出た名前に反応した人もいるかもしれない。そう、『ホームズ』シリーズから飛び出してきているのは主役の2人だけではない。ホームズの宿敵モリアーティをはじめ、ハドソン夫人やモースタン嬢など、おなじみのキャラが続々登場する。ホームズの兄マイクロフトは「他者の情報をたちどころに読み取る異能」の持ち主として、アイリーン・アドラーはナイスバディの女盗賊としてホームズを翻弄。『ホームズ』シリーズを読んでいればニヤリとでき、もちろん読んでいなくてもそれぞれの強烈なキャラの魅力に惹きつけられるはず。

 ホームズ×ファンタジー。作者自身があとがきで、「カレーにですね、カツをトッピングしてみまして、エビフライもハムカツも、ええい、チーズもビフテキも追加だッ! と、そうしてできあがった」と書いている通り、「卑怯!」とすら思えるような組み合わせである。今後も遠慮ないトッピングが追加されますように、と個人的には思う。次は唐揚げか、はたまたケーキか(それは流石にカレーには合わない?)、楽しみだ。

 ところで、そもそもの『シャーロック・ホームズ』シリーズは今、実は青空文庫でも相当数を読むことができる(http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person9.html)。今作の面白さをより堪能するため、「聖典」にも目を通してみてはどうだろう。
(文/小池みき)

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