翌日。富田氏と待ち合わせたのは、首都圏の某都市にあるアンティークな雰囲気の喫茶店。約束の5分前にやってきたのは、スラッとした印象の礼儀正しい女性であった。「私はマンガ家なので、期待されていらっしゃるようなことが話せるでしょうか」という富田氏。けれども、筆者が質問をしていくと、高遠氏をはじめ「人となり」を理由に集英社は作品を掲載すべきでないと主張する人々に、冷静な言葉で反論を始めた。
「『お前会ったことないじゃん!』と言いたいです。私がどういう人間か、会ったこともないのに、勝手に決めつけてる高遠さんこそカルトですよ。安全なところにいて、叩いているだけじゃないですか。薄っぺらな価値観で私を全否定するのは、やめてほしいですね。
もちろん、自分の中に『日之丸街宣女子』で示したような考えがあるのは事実ですけれども、学園モノも描けばファンタジーも描いてきました。今回『グランドジャンプ』で原作を担当した作品は、“国際霊柩送還士”がテーマですから外国人も出てきますが、そこに韓国人が出てきているわけでもなく、在日とのいざこざを描いているわけでもない。でも、“作品が悪いんじゃなくて、人が悪い”なんて言われたら、それはもう“思想警察”じゃないですか。
もし作品の内容に文句があるなら、集英社ではなく青林堂に言うべきでしょう。でも、青林堂には、ひとつも文句は来ていないんですよ。びっくりしました。卑怯ですよ」
富田氏の発言には困惑すら感じられた。無理もないだろう。これまでも『日之丸街宣女子』で描かれている思想とは真逆の出版社から仕事を受けることもあったからだ。先述した、朝日新聞出版の『新マンガ日本史』での徳川吉宗の伝記マンガが、それだ。このマンガ、当初は「東条英機を描いてほしい」という依頼があったそうだが、富田氏は担当編集者に「自分はこういう考えの持ち主ですけれども、頼んでいいと思います?」と正直に申告。「ダメですね」と返答され、もう朝日新聞出版から仕事は来ないかと思っていたら、「これなら大丈夫でしょう」と徳川吉宗の回の執筆を依頼されたのだとか。
さて、富田氏は『日之丸街宣女子』について「私は嫌韓本を描いたつもりはまったくない」と言う。そして、本作に対する「悪質なプロパガンダ」という批判には、次のように答える。
「私は描きたいものを描きたいんであって、描きたくないことは描きたくないんですよ。もし、在特会から『プロパガンダのために、こう描いてくれ』と言われていたら描かないですよ。高遠さんもマンガ家だったら、マンガ家がどういう思いで描いているか、わかるじゃないですか。
この作品はフィクションですが、嘘は描いていません。自分が体験したことを描いているだけです。誰か特定の個人や団体を傷つけようという意識で描いてもいません。実在の個人や団体をこきおろしたり、中傷することはやってはならないという常識はありますから。
それに、これはドラマなんですから、敵と味方がいるわけです。主人公側がかっこよくなるのは当然です。アンチの人からTwitterで『このマンガを見る限り野間さんたちは魅力的だから右翼の人のためにはならないと思いますよ』といった意見が送られてきたんですが……私のキャラクターなわけだから、あなたのキャラはカッコイイと言われて、嫌なわけないじゃないですか。(私が)最も好きなのは、唇の厚いキャラクター【編註:作中に登場する「反ヘイト」に参加する在日四世の女性キャラ】です」
『日之丸街宣女子』をめぐる大論争は集英社にまで飛び火! 渦中のマンガ家・高遠るい/富田安紀子 両者の主張を聞いたのページです。おたぽるは、マンガ&ラノベ、出版業界事情、集英社、表現の自由、グランドジャンプ、富田安紀子、日之丸街宣女子、高遠るい、インタビューの最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!
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