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「アニメだから観ない」という枠をどう突破するか――『この世界の片隅に』片渕須直監督ロングインタビュー【後編】

2015.05.24

■目標額が集まっても、いくらかはカットせざるを得ないかもしれない

片渕須直監督。

 ここからは、さらに一歩踏み込んだ話が始まった。同席していた制作プロデューサーの松尾亮一郎が語り始めた。

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「すでにスタッフの確保は始めていますが、人件費全体の絶対額もあるのでどれくらいの人に参加してもらえるのかは正直わかりません。どこまでやれるかはわからないのですが、作れるところまでやります」(松尾)

 松尾はさらに言葉を続けた。

「近年は『ドラえもん』や『ポケットモンスター』など、ある一定以上の収益が見込める作品でないと、『現場が想定している予算は出せない』と言われてしまいます。実績がないと、『(その作品を見る)お客さんはいるんですか?』と問われてしまう。

『この世界の片隅に』の尺は、本来『風立ちぬ』と同じくらいの2時間超えでプランされてます。(本編が長いと1日に上映できる回数が減るので)劇場さんがちゃんと開けてくれるのか、という問題もあります。尺が長ければ、現場や役者さんのスケジュールをおさえる時間が長くなって、その分どんどん予算がかさんでしまうので、予算を抑えるために泣く泣く尺を削るという選択肢が出てきてしまうこともあるのです」(同)

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 初日の動員を重視する興行システムの中で、実績を不安視されてしまうという現実。それは出資元や劇場に、作品への出資や上映作品として選択することに二の足を踏ませる要因ともなってきた。けれども、クラウドファンディングの実績は、状況を明らかに変えている。やはり、クラウドファンディングの成功は、希望の道を開いているのか……と思いきや、片渕は意外な心情を吐露した。

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片渕:アニメ化を望む気持ちを多く持っている人にたくさんクラウドファンディングに参加してもらっても、興行面では“スクリーンの前に来てくれる人の絶対数”という話になるようなんです。例えば、2000円を出してくれる人が1万人集まったら、“ものすごい数の一般への広がりが予想できる”といえるのかもしれない。いや、正直そこのへんのところはよくわかりませんけどね。ただまあ、集客を占うためのひとつの根拠になるだろう、と。ただ、現状だと、それとは傾向がちょっと違って推移しているようにも読まれてしまう。とても濃く、しかし限られた人だけが観に来る映画だと思われてしまう可能性もある。

 そうすると、その条件下で回収に関する予想がどこかで立てられて、その枠内で制作を進めなくてはならないことになる。どこかで何かが頭打ちになるのかもしれない、ということですね。

 今まで集まったこととか、志の密度というか熱意の濃さには、ものすごく感動しています。その気持ちの熱さにこたえられないんじゃないかという恐れも、ある程度存在してるということです。場合によっては、当初考えていたよりも映画自体を短く作らなければならなくなってしまうのかもしれない。普通はアニメなんか観ない人、本当の意味で一般の人たちが映画の存在を知り、期待してくれる、そういうステージに立たないと、それに見合った作品を作れるようになれないんですよ。

――でも、この作品は、そういうステージを生み出す作品になると思うのですが。

片渕:そうなるためにも、今現実的に出来る範囲の中で、ちゃんとした作品を作らなくちゃいけないんだと思います。だから、目標額に達して、すごくありがたいですけど、全然有頂天にはなれないんです。

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