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「アニメだから観ない」という枠をどう突破するか――『この世界の片隅に』片渕須直監督ロングインタビュー【後編】

2015.05.24

――今、お金を入れているのは、アニメファンでもなく、「アニメはジブリだけ観る」といった一般人でもない。これまでアニメなんか観なかった人もクラウドファンディングに参加しているし、ニュースなどで作品を知り参加している人もいたりと、無限に輪が広がっている印象を受けます。

片渕:アニメーションを観慣れている人でも、今回のような傾向の映画にも期待を広げようとしてくださる方々と、原作の読者という立場から興味を示してくださる方々と、両方がある感じです。でも、(実写)映画一般のファンであるシネフィルと呼ばれる人たち、それにもっと広い大多数にまでは、まだまだ手を伸ばせていない。

 僕自身としては、原作『この世界の片隅に』を、できるだけたくさんの人に読んでもらうことだと思う。『この世界の片隅に』という物語が面白いんだよ、これをいったいどうやって映像化するんだろう、という興味を、この機会にいろんな人に抱いてもらえればと思っています。まだクラウドファンディングの期間も残ってるし、そんなところで何かできることがあるのならがんばりたい。

 そんな呼び方がいいのかわからないけれど、今の劇場用アニメーションには“オタク向け”と“子ども向け”がある。それ以外に“一般向け”の作品があって然るべきなんだけど、ところがそういうところに位置づけられる作品があることは、世間的にはほとんど認知されてない。

“一般向け”の劇場アニメは、ここ十数年、良作が作られ続けていると思うんです。しかし、どの作品も、興行的には苦戦している。初めは自分のだけお客さんが来てくれないのかと思ってたら、横並びにみんなそういう状況に陥っていた。それぞれ単発的な存在だからではあるんですが、そうとはいえ数作られて、もはやひとつのジャンルといってよいほどの本数が存在している。そういう新しいジャンルが日本のアニメーションの中に明確に存在している、ということが一般のお客さんにまったく気づかれていない。

 それに、その間で橋渡しとなるべきメディアのほうでも、なかなか我々の危機感を共有してくれないというか、あるいは、気づいていてもうまく伝える言葉を見つけにくいのか……。いっそ自分たちでひっくるめて、まとめてジャンル名でも作って打って出ればいいじゃないか。そう考えて呼び名を考えたりもしたんだけど、うまいのが思いつかなかった。

――アニメにおいて、いわゆる“一般向け”という言葉自体がひっかかります。

片渕:そこなんですが。“一般向け”のアニメーションとは、イコール“子ども向け”のもの、という考え方がされちゃうんです。『マイマイ新子と千年の魔法』の時には、そこでボタンの掛け違えが起こって……。“一般向け”は“子ども向け”なので、と思われて、上映時間は朝から夕方までという設定になってしまって。「子ども客は保守的」という考えがありましたから、こういう題材はまず大人の人に観てもらって、その人たちが「自分の子どもにも観せたいな」と思うようになってもらう。そういうつもりで作った映画のはずだったんですが、ところが一般のサラリーマンが観に行こうと思っても、最終上映回が17時開始だったりするんで駄目だということになってしまってたんです。友人から「前売り券を買ったのに、会社が終わる前の時間帯にしかやってないよ」って、公開初日に直接電話がかかってきたりもしました。それで、僕らは独自にレイトショーをやってくれる場所を探したりもしました。

 そういう“一般向け”とくくられてよいアニメーションは、たくさん作られている。古くは佐藤順一さんの『ユンカース・カム・ヒア』があるし、Production I.Gが『ももへの手紙』や『百日紅』などを作っていたりする。ほかにも多数存在する。海外にも同傾向の作品がある。アニメファンの人はもちろん、それ以外の、本当に普通にドラマとか映画を観ているような一般の人たちに、「そういう作品があって、特にここ何年かは良い作品がいっぱい揃っているんだ」と注目してもらえるように、世の中がなっていくといいなと思います。

 ひょっとしたら、ジブリがその初期に『となりのトトロ』から世の中に認められるようになっていったように、まずきちんと子ども向けのものを作ってから徐々にステップアップしていくべきなのかもしれない。けれど、先にも言ったけど、子ども向けアニメ市場は、単発ものが入り込みにくい、ほんとに難しいものになってしまっている。

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