「アニメだから観ない」という枠をどう突破するか――『この世界の片隅に』片渕須直監督ロングインタビュー【後編】

2015.05.24

片渕須直監督ロングインタビュー【前編】はこちら

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

 アニメーション監督・片渕須直による、こうの史代のマンガ作品『この世界の片隅に』(双葉社刊)のアニメーション映画化を目指すプロジェクトが進行中だ。製作資金集めの一助として、パイロット版作成のための資金集めが今年3月にクラウドファンディングで始まり、開始からわずか一週間あまりで目標額の2000万円を突破。「クラウドファンディングで国内史上最多額の資金調達を達成」というニュースは、アニメ映画とはついぞ縁のなさそうなスポーツ紙までもが報じた。

 今回、わずかな期間でクラウドファンディングにおいて、2000万円という目標を達成した事実。これは、片渕が選択した『この世界の片隅に』を作る意志が、多くの人々と共鳴していることを示している。それは同時に、片渕がインタビューの冒頭で語った、単発作品には参入困難なアニメーションの配給と興行のシステムを革新するのではないかとも、考えることができる。

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片渕:クラウドファンディングで予想していたのは、「2000円」というコースを設定していて、2000円だと映画を1回観に行く料金とだいたい同じ額じゃないですか。それくらいの額でクラウドファンディングに参加していただいて……。あわよくばの話をすると、そういう人が1万人いれば、2000万円になるんだろうな、と。もっと深く思いのある方がいるとすれば、(出資できる金額としては)5000円くらいかな、と思っていたんですね。

 なので、そうした「5000円」以上のコースへの参加者の方には製作側から宣伝材料をお配りしますので、宣伝してくださいっていう不思議なクラウドファンディングになっていまして。深くコミットしてくださる場合には、制作側とファンの関係がそれくらいになるだろうなと考えていました。実際、すでに今の段階でクラウドファンディングを呼びかけるチラシやポスターをあちこちに置かせてもらったり貼ってもらったりする働きかけをしてくださる方が多数現れてくださってます。その上、クラウドファンディング自体に関しても、想定していたよりもっと金額が上のコースへの出資者が中心となってたんですよね。

 それはひとつに、原作のマンガ『この世界の片隅に』が、いろんな人の心の中で大切な宝物になっていることがあるんじゃないかと思います。

 それから、今まで「ここまで調べた『この世界の片隅に』」【編註:アニメ『この世界の片隅に』の進捗について語るトークイベント】とか「1300日の記録」とかで、「こうのさんの原作には、実はこういうことが描いてある、調べたらこうなっている」といったことを喋る機会や場所を、小黒祐一郎さん【編註:「アニメスタイル」編集長。“アニメ様”としても知られる】から与えてもらえたのも、ありがたかった。そうした機会を通じて、「こいつだったら、こうのさんの世界をめちゃめちゃにはしないだろう」と思っていただけるところまで、なんとか来れたような気がします。だから、意外とこちらが予測していたよりも早く、クラウドファンディングで支援が集まったのかもしれないです。

 それだけ、みなさんの『この世界の片隅に』に対する思いの密度がものすごく強かった。みなさんがすずさんの物語を自分だけの宝物だと思っていた、みたいな感じで受け止めてます。

――今回のクラウドファンディングで、アニメ業界自体が変わるのではありませんか?

片渕:いわゆるアニメファン向きの作品ってありますよね。それは、クラウドファンディングでの資金集めとか、「DVDを売りますよ」となったら、(ビジネスとして)成り立ちやすいように思ってました。特定の観客層として、すでに存在しているからなんですが。

 でも、『この世界の片隅に』という作品は、そういう層とは違う対象に向いているような気もします。どちらかというと、普段はアニメなんか観ないかもしれない一般の人とかも含まれてくる。「『2000円』のコースで1万人を集める」というのが、そうした“一般の人たちに浸透していく”ということだったのだとするならば、それは未達成なのかもしれず、課題はまだまだここから先に残されます。

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