『シムシティ』のゲームクリエイター ウィル・ライトが物語作成アプリを開発 “物語”をめぐる技術

2015.05.20

自分だけの物語が作成できるアプリ「THRED」公式HPより。

 あの『シムシティ』シリーズを開発したゲームクリエイター、ウィル・ライト氏が手がけた最新作はスマホアプリで、しかもゲームではないというから意外だ。そのアプリは、写真などの画像から自分だけの物語をすぐさま作成できるツールだという。

■体験や考えを“絵本”にして共有できるアプリ

 2013年にライト夫妻が創設したITデベロッパー「Syntertainment」社が5月7日にリリースしたiOSアプリ。それが、物語作成ツール「THRED(スレッド)」だ。

 この「THRED」を使えば、日々の生活の中で撮影した写真やネット上に存在する画像などに、テキストやステッカー(シール)を加えたり、リンクを張ったりするなどのちょっとした工夫が簡単にできて、絵本のようにページをめくって楽しめる“自分だけの物語”を作成できるということだ。いったん作り上げたコンテンツはTwitterやFacebookなどのSNSで公開することが可能で、「いいね!」ボタンやコメント欄なども加えて、多くのユーザーと一緒に楽しむことができる。

 極めて個人的な情報が共有できるという点では、秘密共有アプリの「Whisper」や写真共有アプリの「Snapchat」に近いが、ネット上のさまざまなコンテンツの断片をリンクで結びつけ、まさにクモの巣を張りめぐらせるように“物語”を作成する点が、このアプリの特徴ということだ。そして、ほかのアプリよりもコンテンツが「格段にアクセスしやすく、作りやすいものになった」と、ウィル・ライト氏は「TechCrunch」の記事の中で語っている。

 ユーザーが体験したことや考えたことを絵本のようにして表現できるこの「THRED」だが、評判のほうも上々で「このアプリを使って、今後みんながどんなものを作ってくれるのか楽しみだ」「このアプリのコミュティが大きくなってきたらすごいことになりそうだ」など、リリース直後から期待の声が多く寄せられている。現在のところは英語版しかないが、気になったiPhoneユーザーはダウンロードしてみてもよいでのはないだろうか。

■すでに機械までもが“物語る”時代

 物語作成プログラムといえば、日本では少し前に芝浦工業大学で開発された物語作成支援ソフトを使って執筆された小説『僕は小説が書けない』(中村 航、中田永一/角川書店)が小説好きの間で話題を呼んだが、この分野の技術発展は現在めざましい勢いで進行中のようだ。

 昨年6月にはアメリカ大手通信会社「AP通信」が、各企業の決算発表記事を“ロボット記者”に書かせると発表して注目を浴びたことは記憶に新しい。ロボット記者は企業の決算報告書の各所の数字を読み込んで定型的な文章に当てはめて短い記事を作成し、3カ月(四半期)に最大4400本もの記事を執筆するということだ。これに続き「ロサンゼルス・タイムズ」紙や経済誌出版社の「Forbes」をはじめ、ほかの情報産業企業でもロボット記者の“採用”が拡大しているという。

 制作の現場では、決算発表記事を執筆するという単調な仕事から解放され、そのぶん独創的な記事の執筆や取材に専念できるものとして、今のところ記者たちから歓迎されているロボット記者だが、技術は着実に進歩している。

 グーグルマイクロソフトで開発中の“ロボット記者”は、写真を理解してキャプション(説明文)を書き込む能力を蓄えつつあるということだ。画像認識アルゴリズムと自然言語処理を合体させたこの技術は、現在、機械学習によって大量の情報をインプットして処理精度を高めている真っ最中だという。特定の背景知識を必要とする情報量の多い写真はまだ手に余るものの、現状でも単純な写真であれば的確に文章を付けられるということから、“記者職”だけでなく同時実況や視覚障がい者支援など、将来さまざまな分野への応用が考えられている。このままのペースで技術が進歩していけば、当サイト「おたぽる」の記事だって数年後にはロボット記者に席巻されているかもしれない……。ライターとしては精進に努める所存である(汗)。
(文/仲田しんじ)

【参考】
・The Daily Dot
http://www.dailydot.com/technology/will-wright-thread-app/

・TechCrunch
http://techcrunch.com/2015/05/08/simcity-creator-will-wrights-new-app-wants-to-create-a-graphic-novel-of-your-life/

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