“福岡発の萌え米”『こめかみっ！』が、今度はライトノベルに！　マンガ家、ラノベ作家が明かした制作秘話

　レベルファイブの『妖怪ウォッチ』など、ゲーム産業の目覚ましい成長で脚光を浴びる福岡。その一方で、同地で密かに育まれてきたコンテンツがある。“福岡発の萌え米”として誕生し、これまでにアニメ映像やグッズ、テーマソングなどが制作されている『越野七米神 こめかみっ！』だ。2011年に始動したこのプロジェクトが、このほど新たな展開を迎えた。5月15日に創芸舎クリスタルブックスよりライトノベル『こめかみっ！ ライス・イズ・ビューティフル』が刊行されるのである。それに先駆け、同月10日に福岡市スタートアップカフェにて出版記念イベントが開催された。

　まずキャラクター設定担当のマンガ家・春日光広さん（代表作：『ザ・サムライ』集英社）が、これまでの概要を説明。日本各地で誕生したキャラクターのほとんどが作りっぱなしになっている現状を鑑み、『こめかみっ！』では「キャラクターを育てる」ことに気をつかってきたという。

春日「『こめかみっ！』に関しては、最初からキャラクターをバージョンアップさせていく感じでやろう、ということで始めました。最初は設定を作りまして、瀬口（たかひろ）先生に絵を描いてもらって、“お米のキャラクター”というところから始めています。その後すぐ、TCA（東京コミュニケーションアート専門学校）の協力でショートアニメや4コママンガになりました。今回、その流れでライトノベルに至ったわけです」

　また、春日さんは「キャラクターが固まりだすのは、マンガの場合だったら、連載が始まって単行本1冊分くらいからですね。だから、（最初は）どんなベテランさんが描いても絵がぎこちないですね。こなれてくるのは2～3巻です」と、キャラクターが独り歩きを始めるまでの難しさを挙げた。「発展途上のキャラクターですから、どんどんいろんな形になっていってもらえばいいですね」

　春日さんの話にも出てきた瀬口たかひろさんは、『ガールフレンド（仮） 村上文緒編 ～Secret Smile～』（KADOKAWA/アスキー・メディアワークス）などを手がけるマンガ家。『こめかみっ！』ではキャラクター作画を担当しており、「ラノベの絵を描くというのは初めての経験」という。

　マンガとライトノベルの制作上の違いについて、メリハリがハッキリしたインパクトのある色使いのマンガと異なり、ライトノベルのカラー絵は「『影の陰影を強調しないように』と（担当編集から指示された）。『わかりました！』って直すんですけど、それでも濃い。そのへんの感覚を自分の中で試行錯誤していくのが発見だったし、面白いなと思ったところです。イラストは物語の引き立て役ですので、そこでの立ち位置とか、すごく勉強になったなぁと思います」（瀬口）と語った。

　そして、ライトノベル『こめかみっ！ ライス・イズ・ビューティフル』の著者・稲葉洋樹さんは、2010年に『いもうとコンプレックス！ －IC－』（KADOKAWA/富士見書房）でデビューした新進のラノベ作家。作家の道に入ったのは、弁護士を目指していたところ、デビュー作の元となった作品が第23回ファンタジア大賞で銀賞を受賞したことがきっかけだそう。「今回（自身のキャリアにおいて）7冊目を出させていただくということで、これからも頑張っていきたいなと思っています」と挨拶。

稲葉「（ライトノベル化は）元の形を壊さない、元のイメージのファンの人たちを裏切らない、というところがポイントかな、と。そこが難しいと思うんですけど。『こめかみっ！』の場合は、設定とイラストはあるけど、動き自体は決まってない、“必ずしも（設定に）沿わなくていい”という趣旨だったので、そういう意味ではある程度自由度がありました。“オリジナルとは違うけど、普通のノベライズとも違う”という、中間ぐらいのところをやらせていただいたので、私としてはなかなか貴重な体験ができたかなと思っております」

　なお、設定の春日さんと作画の瀬口さんは、福岡出身・在住である。福岡出身・在住のマンガ家では、『クッキングパパ』（講談社）などのうえやまとちさんも有名（昨年、突如として話題となった「おにぎらず」は、もともと1990年に『クッキングパパ』で登場したレシピ）。“食マンガ”とも縁深い福岡に新しく登場した『こめかみっ！』の今後も楽しみだ。
（取材・文／真狩祐志）

■『越野七米神 こめかみっ！』
http://www.komekami.net/