「『クレヨンしんちゃん』の時の感覚を思い出そうとした」原 恵一が語る『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』

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――原作から持ってきたエピソードは、お気に入りのものから?

 そうですね。まずはお気に入りのエピソードの中から、お栄の話を抜き出して。それでも、長さを考えると使えないなとあきらめたエピソードもいくつかあります。杉浦さんの原作は『百日紅』だけでなく、人間と妖怪の世界が混然となっている。そんな題材をあつかっているものが多いんですね。それは“杉浦さんらしさ”だと思うので、あえて意識的に選んでます。この世のものでない存在、それはこの映画には必要だなと思ったんです。

――原作と映画を比較した際に、百日紅の花だったり、エピソードの並べ方だったり、そういった部分で原さんのオリジナリティが出ている感覚ですか?

 まあ当然そうなりますよね。原作通りに作るのであれば、オムニバスにすればいいのですけれど、一本の映画として構成したかったので。

――特に“原さんらしい”部分が出ているなと思うシーンなどは?

 それはやっぱり、お栄とお猶が三囲稲荷に行くところですね。雪のシーン。あれはオリジナルのエピソードですから。

――劇中では、北斎とお栄が通りを挟んですれ違う際の光の使い方や動きのタイミングに、実写映画的なにおいを感じました。懐かしいモノクロ時代劇映画のような見せ方が印象的です。

 なにかの映画からの引用というつもりはないんです。そこはやっぱり、自分の監督としてのキャリアの中から生まれたカットなんじゃないかと思います。

――先にも言った通り、原作を読んでも「一本の映画になる」とは想像しにくかったです。商業的にも、わかりやすい一本筋がある物語ではありません。興行的な意味で、スポンサーなどから「売れる映画にしてほしい」といった要望などはなかったのでしょうか?

 出資者側から、内容に関しての要求や要請はなかったです。自由に作らせてもらいました。制約もなかったですね。あったとすれば“長さ”で、最初に石川さんに言われたんですよね、「予算はこれで、長さは90分以内。それでいいなら、うちは作るよ」って。それははっきり言われました。“長さ”はやっぱり一番気を使ったところではありますね。アニメーション映画だと、僕は長いものを作っちゃうんですよ。90分という映画は『クレヨンしんちゃん』以来久々ですから、その時の感覚をなるべく思い出そうとやってましたね。90分だから画面は濃密になりましたね。

――今回の『百日紅』は、2013年に実写映画『はじまりのみち』を撮られた後の作品です。実写とアニメとの違いや、作風が変わったということはありましたか?

 正直わからないです。ただ『百日紅』の脚本は上がっていたんだけど、『はじまりのみち』の撮影が終わるのを待ってもらっていたんです。久々にアニメーションの現場に入って、まず絵コンテを描き始めるわけですけど、それを描き始めたときの「またこの白いコマを埋めていかなければいけないのか」っていううんざり感は忘れられない。実写では役者さんがいて、カメラマンがいて、いい景色があって、監督が「よーい、はい」「カット」って言って、自分が「OK」って言えばそのシーンは完成してしまうわけですから(笑)。

――これまで原監督は、シンエイ動画で長いキャリアを、『カラフル』でアセンション、そして『百日紅』では初めてプロダクションI.G.とタッグを組んでいます。制作スタジオが変わると、画面作りなどを含め、変わった部分はあったりするんでしょうか?

 今回初めて仕事をするスタッフさんが多かったんですけど、そこはみんな優秀な方たちが集まってくれたんで、そこでの苦労はなかったですね。良いスタッフを集められるプロデューサーだったので、ありがたかったですね。

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『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』は常世と幽世が隣り合わせだった江戸時代を生きる人々を活写した作品である。黒雲の中進む龍、煉獄から現れた妖し、日本橋を行きかうさまざまな人々、雪に覆われた三囲神社の佇まい、浮世絵師の所作、花魁の華麗さ、盲目の少女の儚さ、淡々と描かれる市井の人々の生きる姿が、最後に感動に変化していく。絶妙なさじ加減でこしらえられたアニメーション映画なのだ。日本人ならば『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』を見るべし!
(取材・構成/加藤千高)

■映画『百日紅~Miss HOKUSAI~』
http://sarusuberi-movie.com/

百日紅 (上) (ちくま文庫)

百日紅 (上) (ちくま文庫)

原作との違いも、じっくり楽しんでほしい作品。

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