『赫碧のメイクドール』常識を越えた厨二病作品…なのに、興奮する!

2015.05.10

 バトルにおける脱落は「リングアウト」、並列は「パラレル」、直列は「シリーズ」……。まず、タイトルの「赫(かく)」の字からして、なかなか変換候補に出てこない題名のライトノベル『赫碧のメイクドール』(ポニーキャニオン)。作者の「伊織ク外(いおりくがい)」氏という名前も「ク」の字がカタカナじゃなくて、なにかレアな漢字なんじゃないかとか、戸惑ってしまいます。

 イラストレーター・シノ氏の手による表紙イラストも、大迫力にセクシーで思わず買ってしまった本作。簡単に説明するのなら、“HFG”を使ってバトルする物語です。

 ……“HFG”とは、なんでしょう? “HFG”には「ヒューマンフォームゴーレム」というルビが振られています。魔術が当たり前になった現代。そこでは、人間型のゴーレムがさまざまな用途で使われています。そして、女性型のゴーレムを使ってのバトル「メイクドール」という催しも存在します。

 物語の主人公・砂凪万理は、九十九魔導工科高等専門学校の二年生。希代の天才魔術師の孫の彼ですが、学校では落ちこぼれです。なぜなら、この世界では魔術師の生まれつきの才が、製造するゴーレムに反映されるから。万理の持っている才は<酩酊>。すなわち、作ったゴーレムが酔っ払ってしまったようになるのです。そんな彼ですが、祖父の隠し部屋から、美しすぎる女性型HFGを見つけたことをきっかけに、祖父の時代からの因縁に決着をつけるべく、「メイクドール」へと出場することとなります。

 ヒロインといえるHFGたちとのセクシーな絡みもさておき、この作品の面白さはバトルシーンにあります。バトルにおいて、HFGは後方から魔術師が指示するのですが、彼らの叫ぶ言葉はほぼ厨二病。

「循環接続。<炉・第一燃焼室>点火!」という言葉には「サーキュレイテッド・コネクト キルン ザファーストチャンバー イングニッション」というルビ。HFGが戦うときの名乗りでは「性は<茫漠(ぼうばく)>。魔導の銘は<霧謬ノ幻舞(フォッグズトロット)>」。

 ……真面目なバトルですから、恥ずかしくありません!

「一槍磔刑殺(クルーサフィクション)」という技名など、心底厨二病な雰囲気を楽しめます。むしろ、字面に興奮するタイプの人は、この無理矢理なルビで熱く燃えるはず!

 また、日本魔術協会が作った「帝都中央闘技場」で大観衆を集めて行われる「メイクドール」など――。壮大かつ細かい設定には設定厨も興奮、間違いなし。

 ……何が素晴らしいって、常人ならば夜中に原稿を書いて朝になったら「恥ずかしい!」と、なかったことにしてしまうような厨二病な用語を、作者・伊織氏はなんのてらいもなく、さも当然のように書き進めていること。

 想像してみてください。万単位の観衆の中で、少しエッチなお姉ちゃん風ゴーレムが、恥ずかしい技名で攻撃したり、対戦相手にボコられたりするなんて! ……とっても興奮しますね。これを商業作品に仕上げて、多くの人に知ってもらおうと思った伊織氏の気持ちがよくわかります。

 作者は、本作が『バレットハートの武器商人』 (創芸社)に続く2冊目のライトノベル。これからも、このテイストで読者を楽しませてくれると嬉しいです。
(文/大居 候)

編集部オススメ記事

注目のインタビュー記事

人気記事ランキング

PICK UP ギャラリー