『猫とわたしと三丁目の怪屋敷』“猫×ミステリー”で面白くないわけがない! 少女たちのご近所冒険譚!

 猫は好きですか?

 私は大好きです。

 実家にいる猫たちのことを想っては夜な夜な母に「写真をくれ」とLINEでメッセージを送り、道ばたで野良猫に魅入っては「28歳独身女性が猫を飼ったりしたら詰む」と己を戒め、「これは罠だ、猫マーケティングだ」と思いながら猫写真に釣られて猫雑誌を買ってしまう、それはそれは典型的な猫好き女である。

“うちの子”を特に愛する犬の飼い主と違って、猫好きは、“猫”という生き物全体を好むとよく言われる。動物サイドも、「ぼくのご主人」をひたすら愛する犬に対して、「人間って何? ごはんのこと?」と言わんばかりのマイペースさを貫く猫たち(もちろん律儀な性格の猫もいるけれど)と、猫と猫好きの間に流れる“永遠の片思い”ムードは極めて濃厚だ。そしておおむね、「そういうところもたまんないんだよね〜!」とヤニ下がっているのが猫好きという人種なのだ。『ねこあつめ』なんていう、ひたすら猫が家を出入りするだけのゲームが大ヒットしてしまうのもそのせいなのである。やれやれ(猫缶をあけながら)。

 さて、この『猫とわたしと三丁目の怪屋敷』(KADOKAWAアスキー・メディアワークス/奇水)の主人公、まだ中学一年生の上月沙由実も、私と同じ猫を愛する猫飼いだ。そして、私と同じく猫の奴隷業に励む仲間である……というわけではもちろんない。彼女は、いなくなった飼い猫の“いーちゃん”こと伊緒奈を探して“猫集会”に迷い込んでしまう。

“猫の集会”といえば、猫好きならすぐ思い当たるかもしれない。自由に歩ける家猫や野良猫たちが一カ所に寄り集まり、何をするわけでもなくくつろいでいたり鳴いていたりするあれだ。しかし、沙由実が遭遇した猫集会は、ただの猫集会ではなかった。そこにいる猫たちはなんと人語を喋っていたのだから。人語を解する猫たちだけで行われる“本物の”猫集会は、人間界ではなく、「隣界」で行われる。その中心になるのは、それぞれの土地の守護猫ともいうべき老猫で、人間界の猫集会は、これの真似をして行われているものだそう(うっ、かわいい)。

 沙由実はそこで、その地域のボスであるキジトラ猫から、猫たちの代わりにトラブルを解決したりする人間「猫の手」に選ばれる。うやむやのうち、猫の手として、さまざま事件にかかわることになる沙由実。町には、なんだかんだで協力してくれる先輩「猫の手」たち、一学年上の少女・沢井祈や、喫茶店勤めの美男子・橘在昌、そして彼らのパートナー猫であるクロとシモンといった頼もしい仲間もいる。

「妖怪が起きる」と猫の間で噂になっている屋敷で起きた、母子喧嘩の真相は?
 
 老いた教頭先生の飼い猫はどこへ消えてしまったのか?

 学校内の特定の場所で、いるはずのない猫の声がするのはどうして?
 
 猫から言いつけられる用事は、実はどれもこれもさりげなく人の心の暗がりを覗き込むような、はからずも接してしまうような、少しひりひりする結末にたどり着くものばかりだった。私たちがよく知っているように、真実とは、優しい姿ばかりしているわけではない。どんな出来事でも、そこに含まれる真実は複雑だ。家族間の矛盾した愛憎、誤解、老い――そうしたものものが、人間の目には見えない何かを「起こす」こともある。幼いながら不思議な度量を持った沙由実は、少しずつだが着実に、それぞれの事件の真実を解き明かしていく。

 本書は、キャラクター小説のようでそうでない、猫は出てくるが猫耳は出てこない、人ならぬものは出てくるが世界の破滅の危機が迫ったりはしない、“ご近所”内で起きる不思議な事件と、その真実が綴られた物語だ。おっとりしているが芯の強い沙由実、強気だが人との距離感に悩む祈、飄々とした橘と、登場人物たちの地に足着いた性格も好ましい。それぞれがパートナーとする猫たちのとぼけた会話(何せ、猫だから)にもなごむ。私が特に好きなのは(多分同意見の人がたくさんいるだろうけど)、どんな猫でも抱き上げてしまう「猫使い」こと沙由実の兄・旭だ。何か猫たちをめぐる秘密について知っていることがあるような節も見られるが、そのあたりは続編に期待といったところ。作中に出てきた「妖怪が起きる」という言葉も気になる。

 この本によると「十年以上生きた猫は人語を解する」らしい。私の実家の猫たちも、半分は十歳以上の老猫だから喋れるはずだ。どうりで、私の愚痴に嫌そうな顔をしたりするわけである。そういうところもいいんだけどね。
(文/小池みき)

※本サイトでは、「メディアワークス文庫」を“ライトノベル”として扱っています。

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