消費税10%でコンビニからエロ本が消える!? 出版物への「軽減税率」議論をめぐって――

 2017年4月から予定されている消費税率10%への引き上げ。これに対し、出版物への軽減税率適用を求める声が強まっている。そうした中で、関係筋によれば、自民・公明党ら与党サイドから「エロ本を除外すれば、適用を検討する」といった意見が出てきているという。

 軽減税率適用は、消費税を導入している諸外国で導入されている制度だ。財務省のサイトでは「主要国の付加価値税の概要」外部参照を公開しているが、欧州の規格であるEC指令などを対象に、生活必需品や文化産業などにかかる税率が軽減されている。たとえば、税率20%のフランスでは書籍や食料品の税率は5.5%、新聞や雑誌は2.1%と、設定されている。同じく税率20%のイギリスでは食料品、新聞、雑誌、書籍などは税率ゼロで設定されている。

 この提言発表にいたる出版・新聞業界と自民・公明党との交渉の中で「出版物への軽減税率適用は、成人向け出版物とシール止め雑誌を除外する形ではどうか」、すなわち「エロ本を除外する」という意見が浮上してきたというのだ。

「軽減税率を適用する目的は、文化を保護することです。“明らかに娯楽物であるエロ本が文化といえるのか”というのが、与党サイドの考え方のようです」(出版業界関係者)

 今回、有識者会議が採択した提言の中には、成人向け出版物に関する文言は入っていない。4月22日の産経新聞電子版は「書店やコンビニエンスストアで区分陳列されている成人向け雑誌などは対象に含まない方針」と報じているが、複数の関係者はこの報道を否定する。

「税金は公平であるべきなので“区分陳列されてみんなが買えるものではないエロ本を、軽減税率の対象に含むべきか”という議論があるのは確かです。とはいえ、“軽減税率の適用対象になんらかの線引きが必要”という議論の中で出てきただけで、提言に含まれるものではありません」(出版業界関係者)

 この証言を裏付けるように、同日の毎日新聞電子版は「成人向け雑誌を軽減税率の適用外にすることや、複数税率によって書店に混乱が起きないよう対策を検討」といった記述にとどめている。

 今回の軽減税率除外については、あくまで議論の一例として示されたにすぎないようだが、当のエロ本系出版社は大変な危機感を持っている。エロ本系出版社の業界団体である出版倫理懇話会では4月の会合でこの件が知らされ、対応策を練っている最中だという。

「もし、(軽減税率適用によって)一般の雑誌・書籍が税率8%なのに、エロ本だけ税率10%となれば、レジがややこしくなるため、エロ本の取り扱いをやめる書店も出てくるでしょう。特にコンビニは、一斉にシール止め雑誌の取り扱わなくなることが容易に想像できます」(懇話会加盟社社員)

 先日、本サイトで報じた協和出版販売がトーハンに吸収されたことによる利益減少の問題参照も、まだ交渉継続中で妥結に至っていない(実際に入金額が変わるのは9月以降なので、それまでになんらかの妥協点を探る方針だという)。そんな中、新たに会社が破綻しかねない問題が降り注いできたこととなる。

 与党サイドからの「エロ本だけ軽減税率を適用しない」という提案の背景には、別の見方もある。2020年の東京オリンピックに向けた社会環境の浄化だ。オリンピックにあわせた訪日外国人の増加に対して、日本の“恥部”となりそうなコンビニのエロ本が規制されるのではないか、という説は根強い。もし消費税率の問題でコンビニがエロ本の取り扱いをやめるのならば、“言論”や“表現”の規制といった論点が持ち出されることなく、市場から一掃することができる。これほど、お手軽な撤去法はないだろう。

 この間、安倍晋三政権は新聞・テレビ業界の首脳陣を頻繁に会食に招くなどの懐柔策に成功してきた。しかし、安倍政権にとって、出版界は意に沿わぬ存在であろう。どうも、出版界に亀裂を走らせつつ、軽減税率をエサに締め付ける……そんな陰謀論チックな見方ができなくもない。

 そもそも、消費税率10%への引き上げに国民も納得してしまったのか、反対の声も盛り上がっておらず、出版業界の軽減税率適用を求める動きもまったく注目されていないのが現状。エロ本のみならず、出版文化への危機が強まっている。
(取材・文/昼間 たかし)

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