角川書店や富士見書房、消滅の裏で…内部事情が垣間見えるKADOKAWAの組織再編

2015.04.21

株式会社KADOKAWA公式HPの「企業情報」内ブランド紹介ページより。

 4月16日、KADOKAWAは2013年10月より施行していた社内カンパニー制を廃止し、ジャンル別に編集・製作機能を備えた局体制に組織を再編する意向を発表した。

 新たに新設された局は「ビジネス・生活文化局」「コミック&キャラクター局」「マガジンブランド局」「アスキー・メディアワークス局」「エンターブレイン局」の5つ。「角川書店」「富士見書房」「メディアファクトリー」といった馴染み深い名前が、組織的には消滅したことを嘆くオタクは多いが、事態はそんな表層的な問題ではないと、出版関係者のA氏は語る。

「買収、合併を繰り返してきたKADOKAWAですが、ついに組織統合のための大ナタを振るったという印象です。今回の再編は、社内での格差の助長およびその先にある人員整理が目的であることは誰の目にも明らかですから」(A氏)

 たとえば、これまでの社内カンパニー制ではまず不可能だったグループ内同業他誌間での人材移動が、今回の再編で大幅に局長の権限に委ねられることになる。極論すれば「コミックフラッパー」や「コミックアライブ」から優秀な編集者だけを「少年エース」に異動させ、KADOKAWAのマンガ編集のドリームチームを作ることも、もちろんその逆も可能なわけだ。

 また社内カンパニー制時代は、同じKADOKAWA内でも独立採算制ということで、利益さえ出ていれば各ブランドが独自の編集方針を打ち立てることができたが、ひとつの局に集約された以上、それも難しくなるだろうと、A氏は言う。

「KADOKAWA全体のバランスを考慮した、マンガ雑誌やライトノベルレーベル間の棲み分けが進むかもしれません。一時期、MF文庫がハーレムものばかりだったように、このレーベルはラブコメ中心に、こっちはファンタジーに特化してとか。マンガ雑誌は想定読者の年齢層を細かく設定するなどですね。3~5年は、そうした調整を繰り返しながら赤字の雑誌や編集部を潰していき、それぞれの雑誌やレーベルの稼ぎ頭を、生き残ったところに移籍させていくのではないでしょうか」(同)

 A氏の言葉を聞いていると、淘汰された少数精鋭のスタッフや作家たちが君臨するパクス・ロマーナ(※ラテン語で「ローマの平和」の意。ローマ帝国の覇権がもたらす世界平和を示す)ならぬパクス・カドカワーナ的な、KADOKAWAにとってはバラ色の未来が待っているようだが、実はこの再編によって思わぬ伏兵があらわになったのだそうだ。それは「アスキー・メディアワークス局」と「エンターブレイン局」である。

「ほかの局はジャンル分けで作られているのに、この二局が旧ブランドカンパニー名のままなのは、両局の社員たちが頑なに反対したからだと言われています。アスキー・メディアワークス局はライトノベル界の一大勢力『電撃文庫』を有していますし、エンターブレイン局にも大ヒット作『テルマエ・ロマエ』など、マニア人気の高いマンガ雑誌『コミックビーム』がある。旧角川書店勢がメディアミックスに長けているのに対して、この二局はオリジナルコンテンツの開発能力が高い。彼らにしてみれば、コミック&キャラクター局の傘下で、作家と自分たちで作り上げた作品を、いいように扱われるのは不本意でしょう。とはいえ二局には作家との繋がりが深い編集者も多いですから、そこはKADOKAWAも押し切れなかったのでしょうね」(同)

 そうした視点で考えると、再編の一環として発表されたエンターブレイン局の「ファミ通」編集部がKADOKAWA・DWANGOの戦略本部事業部に移管された件は、また別の意味を持つという。

「先日、『週刊アスキー』の紙媒体撤退が発表されましたが、各ブランドカンパニーの顔だった雑誌を弱体化、もしくは自分たちの陣営に取り込むことで、コントロールしやすい状況を整えているように感じます。元々メディアワークスは、株式会社KADOKAWAの取締役会長であり、株式会社KADOKAWA・DWANGOの取締役相談役である角川歴彦氏が、かつて角川書店を追放された時に創設した会社。その文化を受け継いでいるアスキー・メディアワークス勢や、バイタリティあふれるエンターブレイン勢が、こうした威圧的ともとれる再編に反旗を翻す可能性も、ないとは言えないでしょうね」

 パクス・ロマーナよろしく、KADOKAWAは栄華を築くこととなるのか、はたまた分裂し衰退してしまうのか……。

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