『隠岐島千景の大いなる野望 高校生たちが銀行を作り、学校を買収するようです。』どうしてこうなった!?

 

 ライトノベル『隠岐島千景の大いなる野望 高校生たちが銀行を作り、学校を買収するようです。』(集英社)の作者・須崎正太郎氏は、本作がデビュー作。まず目を見張るのは、まったく萎えることのないテンションの高さです。本編が始まる7ページから終わりの316ページまで、そのテンションの高さにつられて、えらいスピードで読み進めてしまいます! この須崎氏、いったい何者なのか? とネットで検索したら、デビュー作発売にあわせて始めたブログを発見しました。

 やっぱり、文章のテンポがものすごくいい。のっけから次回作も期待したいセンスの持ち主です。  

 さて、本作ですが、サブタイトルの「高校生たちが銀行を作り、学校を買収するようです」で、話の筋はご理解いただけるでしょう。ラノベ読者であれば、“世界がどうしようが”“魔法がどうしようが”“妹がどうなろうが”もう驚かない耐性ができているはず。しかし、こんな文字が並んでいたら「どうしてこうなった?」と、興味を惹かれるに違いありません。

 というわけで、簡単なあらすじは以下の通り。舞台は、人口150万人の地方都市・光京市。かつて街に君臨した巨大企業グループの創業者の息子として生まれた高校生・出雲光一が主人公です。しかし、両親の事故死でグループは解体。今の光一は猛勉強で学園の特待生クラスに入り、バイトなどで必死にお金を稼ぐ日々を送っています。

 彼の同級生は、商売人を志して「徳川家の由緒ある500万円のツボを特別に9割引の50万円」でクラスメイトに売りつけようとする・宍道陽南子(家が貧乏という不幸属性も)、イケメンなのに重度なオタク・京羅木天馬など、妙な生徒ばかり。  

 そんな学園に、「武者修行のために3ヶ月ごとに転校を繰り返して40の学校に君臨してきた教育委員会も物言えぬ学校界の女王」と呼ばれる大企業「稲佐浜興業」の令嬢・稲佐浜月夜が突如現れるのです。  

 転校早々、学園の支配者となった月夜は、光一たち特待生クラスにやる気を出させるためと、彼らの教室をカビとキノコだらけの部屋へ移動させてしまいます。怒りと絶望に震える面々の前でタカピーなセリフを繰り返す月夜に、陽南子は怒りの浣腸を炸裂させるのです。そんなこんなで光一たちは、騒動の最中に遅刻してきた眼鏡っ娘・日御碕灯もろとも、一年間の停学になってしまうのでした。

 停学に絶望する彼らの前に現れたのは、謎の少女・隠岐島千景。彼女こそは、光一の父親が将来の光一の腹心とすべく、密かに海外留学させていた少女だったのです!!

 その類い希なる頭脳によって、千景が導き出した光一らの停学を解く方法。――それは、学園を買収すること。そのためには、一番儲かる銀行を作ることが手っ取り早いということなのです。

 というわけで、銀行の設立を申請したら、すぐに営業免許(現実では資格審査とかあって、申請したらもらえるわけではありません)が出てしまったり、資本金についても、千景の口八丁でごまかすあたりはフィクション。しかし、いざ営業となると地道です。ちゃんと商店街を回って、人々に預金や給料振込口座を作ってもらおうとします。  

 ただし、預金を集めるために千景が発案した顧客への粗品は「女の子の手作りパンツ」。当然、光一に却下されますが、それに対して千景は……

「残念です。良い出来のパンツだったのですが、いずれはこのパンツが世界に広がり、世界中で『コーイチ』と『パンツ』が同義語になるそんな日を、私は夢見ていたのですが――」

 なんとも、お金儲けのためなら容赦ないマキャヴェリズムがたまりません(結局、粗品は天馬の作るフィギュアに決定)。こうして物語は、融資で利潤を稼ぐためにオタクイベントをやりたい商店街に2000万円を貸し付けてコスプレコンテストを開催、という妙な方向へと転がっていくのでした。  

 もはや、銀行を超えた“何か”になっていく光一たちの姿に、「矛盾」とか「あり得ない」なんて意識は微塵も感じません。なにせ、次々とやることなすこと成功していく爽快感が、そうした引っかかりを突破していくのですから。ラノベに限らず、大衆文学のキモである読後の爽快感をとことん注入してくれる須崎ワールド。次はどんな作品を生み出してくれるのか? 期待して待ちましょう! 
(文/大居 候)

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