『賭博黙示録カイジ』『アカギ~闇に降り立った天才~』を筆頭に、壮絶な男の生き様を描き続ける鬼才のマンガ家・福本伸行。そんな福本マンガから濃いキャラクターたちが一堂に会した夢の公式パロディ4コマ『福本ALL STARS』が、現在「近代麻雀」(竹書房)にて連載されている。3月にコミックス第1巻が発売されたので、福本ファンの視点から概要と見どころを紹介したい。
■4つの版元から集まった福本オールスターズ
「公式越境伝」と銘打たれている通り、本作は出版社の垣根を越えたキャラクターが参戦していることが大きな特徴。竹書房からは『アカギ』『天 天和通りの快男児』、講談社からは『カイジ』『無頼伝 涯』『賭博覇王伝 零』、小学館からは『最強伝説 黒沢』、また嬉しいことに、福本氏の最高傑作と名高い『銀と金』(双葉社)も加わる。これら濃厚ラインナップのコミカライズは、ちろ丸氏が担当。かわいらしい2頭身キャラへのデフォルメデザインはニトロプラスのゆーぽん氏、そして原作者の福本氏は「協力」としてクレジットされている。
出自の異なる各作品キャラを集めるため、本作では共通の舞台として「東京近郊・M市」を用意。カイジの居候先とアカギ一家(後述)が隣同士という設定のほか、パチンコ店「沼」、居酒屋「ざわ…」、私立人間学園、さらに超高級老人ホーム「エスポワール」(後述)など非常に混沌とした福本パロディワールドが広がる。
パロディ作品ということで、キャラの性格や立ち位置は原作と同じだったり、大幅な改変が加えられていたりする。たとえば『カイジ』主人公のカイジはパチンコ「沼」での激戦後、共闘者であった坂崎の家に居候している。福本ヒロインズの中で最高の顔面偏差値(トラウマ的な意味で)をもつ美心に言い寄られているのも含め、原作通りだ。『天』『黒沢』の主人公2人もそれぞれ博徒・建設会社勤務と、原作に準拠している。『銀と金』の銀二・森田コンビは銀二が町内会長を務めている部分こそ異なるが、銭ゲバな銀二&ツッコミ役の森田という役どころは原作に近い。『涯』の涯は“孤立”という原作メッセージを反映し、街中で自給自足しながら生きるサバイバル少年になっている。
最も大きく設定変更されたのは、『アカギ』主人公のアカギこと赤木しげるだ。福本作品のアカギは時代ごとに少年期・青年期・壮年期という3つの姿で登場しているが、本作ではこれを別キャラ3人の“一家”として、強引にひとつの家へぶち込んだ。すなわち壮年期アカギが父親(故人だが守護霊として現世にとどまる)、青年期アカギが兄(趣味は辻斬り、人体パーツを賭けたギャンブル)、少年期アカギが弟(趣味はチキンレース、拳銃所持)という具合に……公安からマークされそうな凄まじい一家である。
なお、『零』主人公の零はキャラクターの性格がやや賛否両論な形で改変されている。原作にあった高い知性はそのままに“義賊”という側面だけが薄れ、他人を利用してズルく立ち回るキャラになった。お祭りマンガだから多少ハメを外すのも結構だが、『零』のファンからすれば微妙に思える扱いかもしれない。
本作を語る上で避けて通れないのが、超高級老人ホーム「エスポワール」だ。ここには福本作品でおなじみ“金と権力にあかせて横暴を尽くす狂老人キャラ”が集合し、ちょっとした魔境になっている。
『アカギ』から鷲巣(と市川)、『カイジ』から兵藤、『零』から在全、『銀と金』からは蔵前・神威が入居。むろん下僕の黒服&白服たちもセットである。ファンなら誰もが一度は考えた“もし福本作品の老人キャラが集まったら、どんな惨劇が起こるのだろう?”という疑問が、公式パロディの形でついに実現した。
とはいえギャグ作品なので、血みどろの争いに発展することはない。せいぜいホーム内の親睦イベント「紅葉狩り」で黒服・白服に紅葉を貼り付け、老人たちがペイント弾で撃ってポイントを競う程度だ。充分に非人道的だが、原作での所業を知っている読者には生ぬるく感じられる。鷲巣と兵藤が紅葉狩り中に仲よく揃って迷子となったり、怒り狂っていた彼らが焼き芋を食べただけでおとなしくなったり、2頭身のキャラデザインも手伝ってほっこりした気分にさせてくれる。
それにしても――まさか福本作品の狂老人たちに癒やされる日が来るとは、一体誰が予想しただろうか……。
■ “福本リスペクト”が伝わってくる良作品
とても全体を紹介しきれないボリュームなので概要紹介にとどまったが、本作を一言で表すなら“圧倒的カオス空間”だ。カイジがアカギと麻雀卓を囲んだり、零が兵藤(息子)の小説を添削したり、黒沢がリア充の天に嫉妬したり、クロスオーバー作品ならではのおもしろさが存分に発揮されている。
こうしたパロディマンガは描く側に“原作愛”がなければ駄作になりがちだが、その点も問題ない。原作をしっかり読み込んで、キャラの持ち味を活かしつつ読者を楽しませるつくりになっている。各話のナンバリングが「ざわ:1」形式だったり、吉祥寺に実在するアカギの墓石が登場したり、アニメ版だけで発せられたニセアカギ(平山)の迷言「死にたくなーい!」を効果的に使ったり、繰り出すネタがいちいちファンのツボを突いてくる。
近年なにかと進行が遅れがちな『カイジ』『アカギ』の連載にやきもきしているファンにとって、本作『福本ALL STARS』は一服の清涼剤になってくれることだろう。
(文/浜田六郎)
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