ウルトラマンファン垂涎! “芸術家”成田亨、最大級の回顧展「成田亨 美術 / 特撮 / 怪獣」に怪獣の原点を見る

1503_narita1.jpg《真実と正義と美の化身》1983年 油彩・キャンバス

「成田亨」という芸術家の名前を知っている人はいるだろうか。すぐにピンときた人は、恐らく「え、芸術家?」と疑問に思うかもしれない。成田亨は、ウルトラマンやその怪獣のデザインを手がけたことで知られているからだ。故に、「成田亨 美術 / 特撮 / 怪獣」は、ウルトラマンファンにはたまらない展覧会のはずだ。

 成田亨は1929年生まれの青森県出身の芸術家。現武蔵野美術大学を卒業し、美術スタッフとして各映画会社の特撮作品に関わった。また数々の怪獣デザインや美術作品を残し、2002年2月26日死去した。

 展覧会「成田亨 美術 / 特撮 / 怪獣」はこれまで、富山県立近代美術館、福岡市美術館と巡回してきたが、青森県立美術館での展示が最終地となる。青森県立美術館は、成田亨作品を189点所蔵しており、世界で初めて彼の作品を美術品として収集を始めた本拠地だ。全作品を一挙公開するのはこれが初めてで、かつこれほど大きな回顧展はこの先しばらくないだろう。4月11日~5月31日までの展示がラストチャンスだ。

 展覧会では、成田亨の絵画、彫刻、デザイン画、油彩など合計700点を一挙大公開。よく知る怪獣の構想デザイン画はもちろん楽しめるが、油彩、彫刻など、あまり知られていなかった“芸術家”としての顔が見られる。

1503_narita2.jpg《ピグモン》(部分) 1991年 水彩・紙、木、油性塗料 個人蔵

 また、実物を見られる展覧会ならではの仕掛けもある。成田亨は特撮美術監督としても活動しており、『麻雀放浪記』などのセットを「強遠近法」という、パースを極端に崩した手法を用いて制作している。展覧会場では、当時のスタッフにより、このセットを完全再現した。実物を見ると、崩れたパースに「えっ?」と違和感を抱くはずだが、カメラのファインダーを通して見ると非常にリアルに見えるという、成田亨の持つ技術の高さを体感できる。

 特撮というと、女性は興味を持ちにくいが、先入観にとらわれず、ぜひ足を運んでほしい。成田亨はさまざまなものからヒントを得て怪獣のデザインを創生しているが、珍しい植物や動物といった自然モチーフのものもあれば、ファッション誌やファッション広告から着想しデザインしたものもある。60年代のサイケデリックなカルチャーが、怪獣のデザインに用いられているのだ。展覧会ではこうした元ネタと怪獣デザインとの比較も行っており、ファッション、文化に興味のある女性にもお勧めだ。

 近年、漫画展やアニメ展など、サブカル系の美術展がよく開催されている。夏には文化庁の支援を受けて国立新美術館で「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」が開催される。こうした展覧会の開催理由は、一般の若者に馴染みの深いタイトルや作家名を並べると、集客力が高いことが理由に挙げられる。マンガやアニメといったいわゆるオタク文化は、もちろん日本の貴重な財産ではあるが、そこだけ切り取ってもてはやすのではなく、美術館で展覧会を行うのであれば、美術・文化の一部として真摯に取り上げるべきではないだろうか。「成田亨 美術 / 特撮 / 怪獣」は、特撮をフックに、あくまでも美術としての切り口で作品を展示する。

1503_narita3.jpg《ネクストF案》1992-95年 水彩・紙 個人蔵

 とはいえ、特撮マニアに向けたサービスもたっぷり用意してある。展覧会チラシは全部で8種類あり、そのうち1種類は前売購入特典、もう1種類は開催中会場でのみ入手可能だ。また美術館ショップでしか買えないオリジナルグッズの販売や、平日に来館した女性客にはオリジナルのエコバッグをプレゼント予定とか。マニアなら全種類制覇したくなるだろう。

 今や世界中で愛される特撮や怪獣たちだが、その原点は成田亨にある。彼の作品に目をつけ、収集を始めた青森県立美術館学芸員の工藤健志氏は、「それまでは怪獣といっても、ゴジラやキングコングのように、ただ既存の動物を巨大化しただけのデザインでした。しかしそれを、今まで見たことのない、けれどもどこか愛嬌のある、新しい怪獣として作り出したのが成田亨です。戦後文化の最重要人物と言っていいでしょう」と絶賛する。

 青森は、関東以西に遅れて、5月上旬に桜が咲く。お花見がてら、昭和の大芸術家・成田亨の作品に触れてみてはいかがだろうか。
(取材・文/和久井香菜子)

■「成田亨 美術 / 特撮 / 怪獣」
http://www.aomori-museum.jp/ja/exhibition/67/

成田亨の特撮美術

成田亨の特撮美術

ダダやらブルトンなども。そうして見ると、マグリットっぽい空もちらほら…。

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