盛り上がるヘッドマウントディスプレイ開発  “3D酔い”しないHMDで、「Steam」のValve社が躍り出る!?

2015.03.18

SteamVR公式ページより。

 各社で開発が行なわれている3Dゲーム体験を可能にするヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)の周囲が、ここにきて俄然騒がしくなってきている。先頃、米サンフランシスコで開催されたゲーム業界イベント「Game Developers Conference(以下、GDC)」で、メーカー各社が着々と開発を進めているHMDへの取り組みと販売計画が企業の壁を超えて話し合われたのだ――。

■Valve社が「誰も“3D酔い”しないHMD」を年内に発売

 先日お伝えしたソニーのPlayStation 4用のヘッドマウントディスプレイ開発計画「Project Morpheus」は、2016年前半の発売を目指して進行中であることが今回のGDCで発表された。公開された最新型の試作機は、5.7インチ有機ELパネルを採用し、フルHD120fps対応というスペックだ。注目されていた新たなデモ映像は、関係者向けになんと4編も披瀝され、話題を呼んだ。

 一方、Facebook傘下のOculus VR社のほうは現在開発の最終段階にさしかかっているコンシューマ向けのHMD「Oculus Rift(オキュラスリフト)」を年内に発売すると発表している(残念ながらGDCの後、2015年中の発売はないと撤回された)。一足先に昨年末、携帯端末向けのHMD「Gear VR」をリリースしたサムスンとの技術協力体制を築き、最終調整に磨きをかけているということだ。

 そして、ここに来てダークホースが一躍脚光を浴びることになり、業界関係者を驚かせた。ゲームプラットフォーム「Steam」を提供するValve社と台湾のモバイル機器メーカー・HTCの共同開発による、PCゲーム用VRシステム「SteamVR」の発表だ。このシステムで用いられるHTC製のHMD「Vive」もまた、年内に発売が予定されているという。そしてさらに注目されるのが、Valve社の共同設立者および業務執行取締役であるゲイブ・ニューウェル氏は、この「Vive」が「誰も“3D酔い”しないHMDである」と主張し、意気込んでいることだ。このゲイブ氏の発言によって、ゲーム業界のHMD開発をめぐる動きの中で、Valve社が主役の座に躍り出てきた格好になったのだ。

■業界に大きな傷跡を残す90年代の“大失敗”

 開発者向けの「Oculus Rift DK2」を昨年リリースし、これまでHMD開発をリードしていたと思われていたOculus VRだが、このGDCでValve社に追いつかれていることが明らかになった。興味深いことに、GDCで行われたセッションでOculus VRの技術主任であるジョン・カーマック氏が、同社のコンシューマ向けHMDの商品開発がこれまで遅々として進んでこなかった経緯を率直に語っている。

 コンシューマ向けHMDの商品開発、市場投入に慎重にならざるを得ないのは1990年代の“悪夢のシナリオ”があるからだ、とカーマック氏は語っている。実は1990年代にもVR技術がゲーム業界で注目され、「CyberMaxx」や「VFX-1」、「R-Zone」、任天堂からも「バーチャルボーイ」と、ヘッドセット型周辺機器が各社から相次いで発売された。しかし、そのいずれもがことごとく失敗に終り、ユーザーにも投資家にも大きな失望感を与え、業界に多大な傷跡を残している。加えて、いわゆる“3D酔い”などの健康面への影響も懸念されはじめ、残念ながらこの20年もの間、業界内ではVRヘッドセットは“忘れたい過去”として放置されてきたのだ。

「緻密に作られた感動的なデモ映像を体験してHMDを購入してみたはいいが、実際に家のゲーム機につないでみれば、遊ぶ気にもならなくなる代物のまま発売してしまっては、90年代を繰り返すことになってしまいます」と、カーマック氏は「The New York Times」の記事の中で歯に衣着せずに言及している。

■業界を挙げた新世代HMD元年となるか

 カーマック氏の懸念はもっともだろう。しかし今回のGDCで、誰も“3D酔い”しないというValve社の「SteamVR」が発表されたことは、HMDの今後を占う大きな意味を持つことも確かだ。ちなみに、Valve社のニューウェル氏自身がとても“3D酔い”しやすい体質で、自らを“世界一の3D酔い発生装置”のひとりであると自認している。そのニューウェル氏が開発を主導する「SteamVR」に注目が集まるのは当然かもしれない。

 この「SteamVR」には、モーショントラッキングシステム(motion tracking system)というレーザーを用いて正確にユーザーの動きをVR世界に反映させる技術が使われており、“3D酔い”することなく3Dゲーム体験が可能になるということだ。「Lighthouse」と名づけられたこの技術を、ニューウェル氏は希望するメーカーには無償で提供するとGDCの席上で発言し、Valve社の存在感がさらに引き立つことになった。一説によればOculus VRはすでにこの技術提供を受けているといわれている。

 普段はライバルのメーカー同士だが、ことHMDに関する限りは一部では業界を挙げた協力体制が築かれつつあるようにも見える。今回のGDCでかつてない盛り上がりを見せたHMDの動向だが、今年の年末から来年にかけてどのような状況を迎えるのか、楽しみにしながら今後も注視していきたい。
(文/仲田しんじ)

【参考】
・The New York Times
http://mobile.nytimes.com/2015/03/05/technology/solution-to-nausea-puts-virtual-reality-closer-to-market.html

・Games Industry
http://www.gamesindustry.biz/articles/2015-03-05-gabe-zero-per-cent-of-people-get-motion-sick-from-vive-hmd

・Red Bull
http://www.redbull.com/jp/ja/games/stories/1331631434257/rip-the-fallen-heroes-of-virtual-reality

編集部オススメ記事

注目のインタビュー記事

人気記事ランキング