Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第29回

SF中のSF作品! 冨樫義博の才能を再確認させられる『レベルE』を見よ

 どれも珠玉のエピソードだと思う。何度も何度も読み返しているので、ほとんど暗記しているほどだ。

 冨樫義博作品の一番好きな点を、あえてひとつだけ挙げるとするならば、善悪がはっきりしていない所だ。これは少年誌には珍しいだけで、大人向けのマンガには、善悪がはっきり別れていない作品はもちろんたくさんある。そもそも、この世の中がそんなに善悪がはっきり別れているわけではない。大体のモノは見方によって、どちらが善だか悪だかわからなくなってしまう。

 善悪をはっきり描かないと、たしかに大人っぽい雰囲気、現実的な雰囲気になる。ただ、そうなると戦闘の爽快感が失われてしまう。少年マンガやアメコミでは便宜的に、敵をものすごい悪いヤツにしていることが多い。『北斗の拳』のハート様が実は猫が好きだったりしたら、『ひでぶ!!』と爆発しても、なんだかスッキリしない感じになってしまう。

 敵は敵らしく悪いヤツであるということは、物語の推進力を保つために、非常に大事なお約束なのだ。

 しかし、冨樫義博作品は、少年誌としては珍しいほど善悪が曖昧なのである。それでも、作品の爽快感は失われていない。少年マンガの大胆な物語を持ちつつ、大人らしい展開をするのがとても面白い。すばらしいバランス力だと思う。

『レベルE』は、地球人と宇宙人、宇宙人と宇宙人の接触が描かれる作品である。異種であり、異文化である相手と交流するのは、一筋縄ではいかない。

 そもそも主人公のバカ王子もかなり困った存在で、法律は犯すし、周りの人間もいつも困っているが、宇宙人たちは輪をかけて厄介な奴らが多い。

 好戦的でいくつもの星を滅ぼしてきた宇宙人は、人類の敵なのか? 異性を本能的に食べてしまう宇宙人は悪なのか? 異種交配した相手の種族を全滅させてしまう宇宙人は悪なのか?

 そんな答えの出ない葛藤が描かれる林間学校のエピソードと、マクバク族のエピソードは、本当に何度読んでも飽きない。

 この葛藤に関しては、『幽☆遊☆白書』の後半戦、人間と妖怪との関係でも描かれていたし、『HUNTERXHUNTER』のキメラアント編でも丁寧に描かれていた。とても興味深く、面白い。

 『レベルE』は全2巻の短篇集なので、とても気楽に読むことができる。冨樫作品はまだ読んだことがないという人も、入門編として気軽に読むことができるので、ぜひチャレンジしていただきたい。 

●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/

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