『ハンガー・ゲーム』に『ウォーキング・デッド』…海外で人気を博す廃墟の“聖地巡礼”

　台東区の谷中銀座商店街や八王子市の高尾山など、最近は意外な土地が観光スポットとして盛り上がっているのはご存じの通り。加えて、必ずしも旅に娯楽を求めない「廃墟ブーム」や「ダークツーリズム」という言葉を耳にするようにもなり、これまでには考えられなかった観光スポットが日本のみならず世界各所で出現しているようである。米ジョージア州・アトランタにも決して楽しい気分にはなれそうもない(!?)スポットがあり、今注目されているという。

■殺風景な街を巡るツアーが人気？

　道端のあちこちに廃棄物や粗大ゴミが放置されている殺風景な倉庫街、人を寄せ付けぬ雰囲気の厳しい石造りの大邸宅……。アトランタにある決して風光明媚とはいえないある土地に、観光客が集まっているという。この街で行われている「アトランタ・ムービーツアー」に参加するためだ。

　実はこの街、人気ホラードラマ『ウォーキング・デッド』をはじめ、SFアクション映画の『ダイバージェント』や『ハンガー・ゲーム』などが撮影された街として有名なのだ。ちなみに所要時間2時間ほどのこのツアーの料金は65ドル(約7700円)。けっこうな値段のように思えるが、これを高いと感じるか安いとみるかは人それぞれだろう。

「ジョージア州では映画とドラマにちなんだ“町おこし”に5年前から取り組んでいる中で、このツアーを企画しました。映画の世界をより“リアル”に感じられるツアーなんですよ」とツアーを企画したキャリー・バーンズ氏は「CNN」の取材に応えている。

　ジョージア州はニューメキシコ州やルイジアナ州と並んでここ数年、映画やテレビドラマなどの映像製作が盛んになっているという。街には19世紀の街並みを広域にわたって保存、維持している「Goat Farm Arts Center」と呼ばれる区画があり、いわば日本でいう“映画村”として使われ、多くの作品のロケ地になっているのだ。『ハンガー・ゲーム』ではこの区画が、主人公が育った“第12区”の舞台となっている。また、劇中に登場する大統領邸は、この地に1920年に建てられた「スワンハウス」という大邸宅がそのまま使われている。

　アトランタ市が管理しているこのスワンハウス内でも現在、『ハンガー・ゲーム』にちなんだツアーが行われているということで、関連した写真や映画で使われた小道具などを展示している。

■映像の重みが違う、産業遺産でのロケ撮影

　2008年に発行された大ヒット小説『ハンガー・ゲーム』は、2009年に映画化が決まると、原作の各国語への翻訳はもちろんビデオゲーム化もすぐ決まり、映画のサウンドトラックではアーケイド・ファイアからテイラー・スウィフト、コールドプレイなど豪華ミュージシャン陣が楽曲を提供して大ヒットを放った。

　メディアミックス戦略のみならず、サンドイッチチェーンの「サブウェイ」とタイアップして『ハンガー・ゲーム』の広告入りデザインカップを製作したり、ファンション情報サイトとコラボして劇中のファッションやメイクを提案したりと、何かにつけて積極的に展開しているのも、この『ハンガー・ゲーム』の特徴だ。そして今回は“町おこし”にも起用されて、その影響力は拡大する一方である。

“映画村”化して脚光を浴びることになった、広い意味での19世紀の産業遺産「Goat Farm Arts Center」だが、ひるがえって日本では、今年夏に2作続けて公開予定の実写版『進撃の巨人』がまさに20世紀の産業遺産である“軍艦島”で撮影を行ったことも話題になっている。安全面の理由から、現在は限られた期間に島の一部にしか上陸することはできないが、目下世界文化遺産登録を目指しているということで、今後安全性を確保する工事が行われていけば、軍艦島が撮影ロケ地として選ばれることも増えてくるかもしれない。

　映像の世界でめざましい進歩を遂げているCG技術だが、やはり実際のロケで撮影した“画”は重みが違うと感じる次第だ。それが歴史ある史跡や遺跡ならなおさらのこと。映像作品の見応えを大きく左右するロケ撮影は、今後もぜひさまざまなバリエーションを確保してもらいたいものだ。そしてあわよくば“町おこし”につながれば、願ったりかなったりである。
（文／仲田しんじ）

【参考】
・Daily Dot
http://www.dailydot.com/geek/hunger-games-vacation-tour/

・CNN
http://edition.cnn.com/2015/02/06/travel/hunger-games-tourism-feat/index.html