『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』を読む――原作者による反論本は問題描写に決着を付けたか?

■まとめ――本書で明らかにされたことと、それでも残る問題点

 ざっと『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』の概要について紹介してきたが、筆者個人としては評価できる部分と、そうでない部分が分かれるような印象を受けた。

 評価できるのは「原発見学で鼻血が出るシーンをマンガに描くなんて風評被害を助長させるだけだ」という批判に対し、一定の反論意見を示したところだ。本書には反論するにあたって相当数の実験・調査データが用いられており、疑問に感じた人がいれば客観的に検証することができる。遅きに失した感はあるが、少なくとも当初批判されていたような「言いっぱなしで逃亡」ではなくなった。

 だが一方で、(これは原発推進論者も同じだが)自説を展開していく中で“自分に都合の良い証拠ばかり集めている”感は否めない。たとえば同じ福島県内で行なわれたアンケート調査(外部参照)では、原発事故前に比べて「鼻血が出るようになった」と回答した人はゼロだったという結果が出ている。また、震災後に小児科医が実施した調査によれば「福岡県のほうが福島県より“鼻血の出た子供”が8倍も多い」という(外部参照)。これらが事実なら雁屋氏の説を揺るがしかねないが、そうしたある種“都合の悪いデータ”は本書で触れられていない。

 取材ソースの偏り、ミスリードを狙ったかのような描写方法、市民団体が行なったアンケート調査結果の無断使用など、作品づくりにあたって指摘されていた多くの問題点についても本書ではスルーされている。「自分は真実しか書かない。だから鼻血問題によって“風評被害”は生じていない」という確固たるスタンスから、『美味しんぼ』を読んで気分を害した被災地の人々や読者への謝罪はない。本書を一読して「ただの自己弁護に終始しているだけ」と嫌悪感を示す人もいるだろう。事実、ネット通販サイト「Amazon.com」のレビュー欄を見ても本書の評価は真っ二つに割れている。いずれにせよ、わざわざ1500円もする書籍を買わないと“原作者の真意”がわからないような描写方法には、マンガ作品として問題があったと言わざるを得ない。

 最後に、雁屋氏の『美味しんぼ』原作者としての基本スタンスが書かれている(と筆者が感じた)箇所を引用し、記事を締めくくりたいと思う。前後の文脈を考慮せず部分的な引用にとどまるため、正確な意図が把握できない可能性はあらかじめご容赦願いたい。

 以下、『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』 P69より引用

私が『美味しんぼ』で書いたことはすべて自分の目で見て、自分の耳で聞いたことです。
他人の噂話など、一つも書いていません。
書いたことの事実の責任は、すべて自分で明らかにできます。
私は取材したときの資料を大量に保存しています。
私が『美味しんぼ』に書いたことの事実の記録は山のようにあります。
自分で調べ回ったので、他人の噂話など、書く余地が私にはありませんでした。
私が書いた事実に対して、様々な意見があると思います。
しかし、それは、きちんとした事実ときちんとした科学的な理論を元にしたものであることを私は望みます。

(文/浜田六郎)

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むしろ、「鼻血問題」とはなんだったのか?

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