暗中模索でも描くしかない! 修羅の世界に生きる“マンガ家”を描いた 『小光先生の次回作にご期待下さい。』

 連載が終わった途端、無職になる。そんな修羅の世界に生きているのが“マンガ家”という職業だ。水口尚樹氏の『小光先生の次回作にご期待下さい。』では、同氏の前作『明日にはあがります。』(共に小学館)で連載を持っていたマンガ家の主人公・小光栗夫先生が、新連載を獲得するべく暗中模索する様が描かれる。

『明日にはあがります。』内にて、小光先生が連載していたマンガ『ときめき堕天使モモカ』は、単行本の売り上げが悪かったので打ち切られた。そんなわけで、先生は必死に売れる作品を考える。けれども、打ち切られてすぐに売れる作品のアイデアを創造するなんてできるはずがない。手塚治虫先生だって水木しげる先生にだって不可能だろう。

 タイミング悪く母親から電話が掛かってきて、必死に仕事をしている振りをする。その挙句、次に電話が掛かってきたら連載を終えて充電期間という“設定”にしよう、と必死に考える様が悲しさを漂わせる。『明日にはあがります。』によると、小光先生の実家は松戸市。おまけに兄は無職。都内からの微妙な距離感と実家にニートがいるという事実が、小光先生に余計なプレッシャーを与えているのは想像に難くない。

 しかし、この作品は決して暗くはならない。なぜなら、小光先生は周囲の人間関係に恵まれているからだ。『明日にはあがります。』最終回で自身の連載が始まることとなった元アシスタントの松井くんは、忙しいはずなのに何かと相談に乗ってくれる。松井くんから、ブログをちゃんと更新して、他社からの依頼のためにメールアドレスを公開するよう、アドバイスをもらう小光先生。早速それを実行に移す小光先生だが、徹底して何かがズレている。小光先生は、松井くんの連載を応援する文章と共に松井くんの写真を顔出しでブログにアップ。そして、自身のメールアドレスをドン引きするくらい大きくトップページに掲載する。松井くんは、小光先生のそんな行為にドン引きしながらも付き合いを絶たないので、善人に違いない。

 加えて、小光先生に新しい仕事を依頼してきたマンガ雑誌「少年フェニックス」の編集者・嵯峨野ハルヒサも、異常に声が小さい(電話で天丼大盛りを注文すると、天そばのネギ大盛りが届く)ことを除けば、マンガ家に対する真摯な姿勢を崩さない。

 友達もいないし、モテないし、才能も疑わしい小光先生。こうなると転落してしまうマンガ家もいるはず。世の中には、唐沢なをき氏のマンガ『まんが極道』(KADOKAWA エンターブレイン)に出てくる登場人物のように、描かないのに口だけは一人前なマンガ家だって大勢いるだろう。でも、打ち切られても腐ることなく、新連載までの険しい道のりを歩もうとしている小光先生はとても恵まれているはずだ。腐っている時間があったら、煩悶しながらでも描くしかない。それが“マンガ家”という仕事だと、このマンガを読んで納得した。
(文/是枝了以)

小光先生の次回作にご期待ください。 1 (ビッグコミックス)

小光先生の次回作にご期待ください。 1 (ビッグコミックス)

ようやくのぼりはじめたばかりだからな このはてしなく遠いマンガ家坂をよ…

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