『女子高生に殺されたい』「殺される」のは「殺す」よりも苦労が多いな…と同情するマンガ

 久しぶりに古屋兎丸氏の作品を購入。人間、人生の中で「こーゆーちょっとキッチュな作品を読んでいたらカッコイイんじゃないか」あるいは「文科系女子(と称するサブカルクソ女)と付き合えるんじゃないか」と、サブカルマンガに読みふける時期はあるもの。でも、大学で文化系サークルに入ってみたり、あるいは社会人になってから小説家講座なりシナリオ教室に通ってみて、思い知るのだ。そんなことは全然ないのだ、と。結局、自分が単なる自意識過剰人間かキモヲタだと気づいた時に、読むことから離れてしまうマンガの代表格が古屋兎丸氏と町田ひらく氏の作品だと思う。ま、最近は文学フリマとかネットがあるから、一生「俺は人とは違う」と自意識過剰な在宅批評家として生きていけるんだけどね。

 前置きが長くなってしまったが、今回の作品を紹介しよう。購入動機は当然タイトルである。そのマンガのタイトルは、『女子高生に殺されたい』。いやいや、出版元が新潮社なので何か文芸の香りがするけど……どうみても変態度は抜群である! 

 物語の主人公・東山春人は34歳の高校教師。大学では心理学を学び臨床心理士を目指していた彼が高校教師になった理由は、タイトルのように女子高生に殺されたいからである。物語では、親に放任(ほぼ放置児童)されて育った彼の生い立ちなども語られる。彼の目覚めは、高校生時分の電車の中。その時、電車で向かいに座った女子高生に殺されることを想像し、射精へと至ったことが綴られる……筋金入りの変態である。

 その後、自分の性的嗜好として、オートアサシノフィリア(自殺や自傷と異なり自分が殺されることに喜びを覚える嗜好)があると気づいた東山は、青春期を通じて理想的な殺され方を構築していく。

「何回も繰り返され自分の想像をはるかに上回る苦痛を与えられ死にたい」

「完全犯罪でなくてはならない」

 などなど、自分が殺される妄想の自慰と共に導き出された結論は“女子高生に絞殺されること”だったのである。しかも、こうした妄想をしながら、大学時代はテニスサークルに入って彼女もいたというから、変態性はさらに高まる。
 
 いやいや、世の中こうした実際にやったら、犯罪、相手か自分が死んでしまう系、あるいは現実では不可能な性的嗜好の持ち主は、相当いるものである。筆者もこれまで、様々な変態に出会ってきた。実のところ「殺したい」という危険な変態には出会ったことはないが「殺されたい」変態には男女とも出会ったことがある。

 だいたいの人は、そうした嗜好を解消する方法を人生の中で見つけているものである。創作物で欲望を満たす、自分で創作する。あるいは、SMクラブなど変態に対する理解が柔軟な場所で解消するとか。実際、SMクラブには女王様がドン引きするくらい傷つけられたり、殴られたり、絞められたりするのを求める人がやってくるもの。変態は、常にいかにして自分の欲望を社会と対立しない方法で満たすかを考えているものである。

 けれども、数年に一度はやらかしてしまうヤツが出るものです。東山もその類いのヤツといえる。

 さて、今回発売された第一巻では、丁寧に登場人物を紹介し、東山が夏休みに女子高生に殺される計画を実行することを決めるところまでを描いていく。

 東山が、この女に殺されたいと思ったのは、学校でも可愛いと評判の佐々木真帆。この少女を中心として、真帆の親友で保健室登校が日常の後藤あおい。そして、真帆に惚れている同級生の男子・川原雪生。東山の大学時代の彼女でスクールカウンセラーとして赴任してきた深川五月が絡みながら、プロローグが綴られていく。前半で、あおいが典型的なアスペルガーで記憶力や得意分野には天才的な能力を示すが、小さな音も気になることが提示され、後半では純粋に美少女かと思われていた真帆も、実は危機に陥ると別人格が登場する多重人格者だったことが判明する。

 つまり、一巻を使って記されたプロローグから明らかとなるのは、東山が自らの性的欲望を満たす人生のフィナーレはなかなか困難な道程になりそう、ということだ。

 ま、自分が死ぬぶんには、さほど迷惑もかからないのかも(夏なので腐敗するから完全犯罪になって真帆にも迷惑がかからないという計画なのだ)。せっかくの練りに練った計画、人生の最期は幸せに終焉してもらいたいものである。……でも、苦痛が欲しいなら絞殺はちょっと甘いな、と筆者は思っている。
(文/ビーラー・ホラ)

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