主人公であるセールスマン、喪黒福造は、『ギミア・ぶれいく』の司会もつとめていた大橋巨泉がモデルだったという。現代人の欲望をセールスマンが「ひみつ道具で夢をかなえる」という、“ドラえもんの大人版”とも言えるコンセプトだが、シニカルでダークな内容が多く、いかにも藤子不二雄A的な作品だ。そもそもこの作品で、藤子不二雄Aの存在を知った人も多いのではないだろうか?
そんな、藤子不二雄Aの代名詞的作品である『笑ゥせぇるすまん』は、現在の作品にも大きな影響を与えている。今回は、そんな“『笑ゥせぇるすまん』の遺伝子”を継ぐ3作品を紹介していきたいと思う。
* * * * *
『猟奇伝説アルカード』
(稲垣美佐緒/リイド社/1996年)
人生相談の館“アルカード”。人は、人生の願い事を叶えるために、この館を訪れ、館の主は、願いを叶える代わりに、訪れた人の身体の一部をもらう。この館の主・アルカードは永きに渡って生きてきたのだが……調子の悪くなった部分を依頼者からもらい、補うことで延命してきたのだ。一方で依頼者は、一時の幸せをえるが、そのほとんどは不幸になってしまう。そのグロテスクさと後味の悪さは、まさしくAの遺伝子を感じさせる作品だ。
『東京爆弾』
(矢島正雄、はやせ淳/双葉社/1991年)
初老の男が、病気の人や、悩みのある人に、ドクロの形をした薬を配っている。その薬の名前は「東京爆弾」。一旦飲めば、ほとんど歳をとらなくなり、体力や精力も普通の人の3倍になるという薬だ。この薬を飲めば人生の成功者になること間違いないのだが、2点だけ、注意点がある。
“東京を出てはいけない”
“感極まってはいけない”
この2つを破ると、「東京爆弾」は爆発してしまう。『人間交差点』などのマンガ原作を務める矢島正雄が原作というだけあって、ヒューマンチック。約束を破ると災難が起きるというパターンはまさに、Aの悲劇だ。
『楽園市場~幸せの裏道具お売りします』
(NARUKO、ゆうきつむぎ/E★エブリスタ/2015年)
現在も連載進行中の作品。『かっこよくなりたってモテたい』『きれいになりたい』『綺麗な女の子と付き合いたい』などの欲望を叶えてくれる神アイテムを、ある通信販売業者が配り届けている。そのアイテムを使うと、超科学的に願いが叶うのだが……あまりに依存性が異常に高いのが玉にキズ。ハマってしまうと、身体に致命的なダメージがくることも。商品を使っているうちに熱中してしまい、取り返しがつかなくなってしまう……というプロットはまさに、『笑ゥせぇるすまん』的な作品と言えるだろう。
* * * * *
こうして、A的センスは衰えることなく、現在の作家たちにも受け継がれている。生誕80周年の今年は、小学館クリエイティブから懐かしい作品が復刻されるなど、また、注目を集める同氏。皆さんも、久しぶりに手に取ってみてはいかがだろうか?
(文/村田らむ)
★藤子不二雄Aの復刊作品一例
『シルバークロス』
1960年から『少年』に連載された、知る人ぞ知る作品。悪の組織QQQ団に父親を殺された黒須健二が、国際秘密機関・十字警察に所属し、「シルバークロス」となり、悪の組織と戦う……いわばヒーローモノの作品だ。藤子不二雄A作品としては珍しいテイストの作品である。
『UTOPIA 最後の世界大戦』
藤子不二雄A作品としては、初めて単行本になった作品だ。手塚治虫に作品を見せて単行本化が決定するエピソードは、藤子不二雄Aの名作『まんが道』に詳しく描かれているので、一度は読んでみたいと思った人も多いのではないだろうか?
『宇宙少年団ロケットくん』
こちらも『まんが道』に出てくる重要作品のひとつ。売れっ子マンガ家になった後、大量に原稿を落とし、干された後、再起を誓って描かれた作品である。『まんが道』の中で、とても重要なエピソードに登場するマンガであるため、覚えている人も多いだろう。
『巨人の復讐』
“人造人間の研究をする科学者フランケンシュタイン氏”という、“モロ“な人物が登場するホラー作品。『まんが道』でもフランケンシュタインを見るエピソードは描かれている。『怪物くん』のフランケンシュタインはもちろんのこと、『魔太郎がくる!!』などのホラー作品の原点と言える作品だ。
御歳80歳を迎えた藤子不二雄A氏の代表作『笑ゥせぇるすまん』が遺伝子がこんなところに受け継がれていた!のページです。おたぽるは、漫画、マンガ&ラノベ、作品レビュー、村田らむ、藤子不二雄Aの最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!
人気記事ランキング
人気連載