北斗の拳に出てくる悪党は、本当に気持ち良いほど性根が腐っている。弱いものからは奪い殺し、強いものにはこびへつらう。そしてケンシロウは、みじんの容赦もなく悪党たちを殺していく。少年誌の主人公としては、ぶっちぎりで口が悪い。
「おまえはもう死んでいる」
は北斗の拳を象徴する有名なセリフだが、ほかにも
「死ね くまどりやろう」
「あとのたわごとは地獄の鬼にでも言え」
「ブタはブタ小屋で寝てろ」
とまあ、口汚い口汚い。さらに、その殺し方もかなりサディスティックなものが多い。悪党が断末魔に
「ひでぶ!!」「あべし!!」「たわば!!」
などと絶叫しながぶっ飛ぶのだから、とても爽快だ。
PTAや教育委員会がどんだけ怒ろうが、小学生は夢中で読む。僕も読んだ。大人になって久しぶりに『北斗の拳』を読むと、そのスピード感に驚く。とにかく物語がドンドン展開していく。
意図的に隠されていた人間関係や歴史が回を重ねていくうちに明らかになっていく、という展開ではなく、物語が進むにつれ、人間関係や歴史が新たに作られていく……という感じだ。
例えば、『●●●が南斗六聖拳最後の将』とか『●●が天帝の双子の妹』だとかいう設定は、おそらく物語が進むうちに出来上がったものだと思う。「行き当たりばったり」と言うと、とても悪いことのようだが、決してそうではない。「凝りに凝ったストーリーを持つマンガ」よりも「その場その場で面白い展開をしていくマンガ」のほうが面白くなる場合、人気が出る場合は非常によくあることだ。
特に、少年誌の場合は顕著だ。
『北斗の拳』は、無駄を省き、読者が見たいシーンや展開を効率的に見せていく。そして、原哲夫の半端ない描写力の高さがあるがゆえに、多少無理な展開があったとしても、違和感なく読めるのだ。
全話を通じて一番盛り上がったのは、ラオウとの戦いだろう。ラオウは北斗神拳四兄弟の長兄であり、末弟ケンシロウの兄になる。次兄トキ、三男ジャギの四兄弟である。
僕はひとりっ子で、兄弟というものがよくわかっていないのだが、それがゆえに兄弟に対するあこがれみたいなものがあって、兄弟モノの作品は好きである。マンガでも、『タッチ』『聖闘士星矢』『鋼の錬金術師』『宇宙兄弟』など、古今兄弟が助けあったり、対立する作品は多い。
映画だと、僕が最も好きな映画のひとつ『ガタカ』の中で、遺伝子的に劣った兄と、完全な遺伝子を持つ弟が争うシーンがあるのだが、とても燃えるし泣ける。見ていない人には、ぜひぜひオススメである。
兄弟モノには同じ血を分けた者独特の愛情、嫉妬、憎しみ、があると思う。ケンシロウとラオウの関係も、「ラオウが北斗神拳の継承争いでケンシロウに負けていること」「同じ女性を好きになってこれまたケンシロウに負けていること」
などからかなり因縁が深くなっていると思う。
しかし、そんなラオウも、初登場の頃はそこそこ卑劣で残忍だったが、物語が進むにつれカリスマらしい、大物な性格のキャラクターに育っていった。同じパターンだと、『美味しんぼ』の海原雄山がいる。最初はそこそこ嫌なヤツだが、どんどん人格者になっていった。
ラオウの最期、天に向かって拳を突き出し
「わが生涯に一片の悔いなし!!」
と大往生する場面は、マンガ誌に残る名シーンである。
ただ、このシーンがあまりに強烈すぎたため、これ以降の敵キャラクターはとても苦労をしたと思う。どうしてもラオウと比べてしまうし、ラオウより強いと言われても、読者的には納得がいかないのだ。
そして、後半戦では、ラオウやケンシロウに兄弟が増えていくのだが、
「そんな雨後のタケノコみたいに、兄弟がボコボコ増えられても……」
とちょっと冷めてしまったのはいなめない。
しかし今、読み直してみると、ラオウ亡き後の、天帝編、修羅の国編も面白かった。ファルコ、アイン、シャチなど良いキャラも多いし、原哲夫の絵もますます切れている。連載が進んでいる時のテンションと、連載が終わって何年も経った後では、読書感も変わるのだな、と思った次第だ。
●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/>
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