Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第26回

『ポーの一族』の“ポー”とはもしや……? 少女マンガならではの美しさで描かれた“不老不死モノ”の魅力

『ポーの一族』は、少年のまま時が止まってしまった主人公、エドガー・ポーツネルの人生を描いた作品だ。
 
 時系列通りに物語が進むわけではなく、1巻の1話目では、主人公はすでにバンパネラ(吸血鬼)であり、年齢もすでに100歳を超えている。見た目はまだ幼いのに、性格は冷酷。両親に対しても、他人のような接し方をしている。だが妹、メリーベル・ポーツネルだけには強い愛情をよせているのだ。

 とても奥深い話が隠されていそうだが(実際に隠されているのだが)、1話目だけでは分からない。読者を焦らす、とても上手い構成、演出だ。

 不老不死モノの面白さのひとつは、人間より遥かに長生きをする人間が、世の中の移り変わりを見るという部分だろう。

 舞台は、近世の貴族階級、バンパネラの村、現代の男子学校、とうつろいゆくが、主人公エドガーは変わらない。美しい姿で、そこにいるのである。

 この作品の一番の特徴であり、魅力のある点は、主人公が美少年であるという点だろう。これは少女マンガならではだ。14歳の姿なのに、大人びて残酷なバンパネラ。食事は指先から人のエナジーを吸い取る、もしくはバラのエキスを飲む。呼吸も脈拍もなく、鏡にも映らない。

 これは女の子たちにとってはたまらないキャラクターだろう。学校にいる、東洋人丸出しで、にきびを潰しながら、エロいことばっか考えている、いかにも“生きている”同級生たちとは大違いである。

 そして美少年たちは、実際にとても綺麗に描かれている。男でもドキッとするくらいだ。

 もしもこれが少年マンガで、主人公の少年が吸血鬼になったら……どんどん強い敵が現れてバトルしまくる展開になるだろう。しかし、これが少女マンガだったからこそ、とても繊細な物語が綴られていく。

 1話目で主人公は多くを失うのだが、代わりに新しい仲間を手に入れる。14歳の美少年バンパネラ、アラン・トワイライトである。

 不老不死の美少年同士のカップルが、友情のような、恋愛のような、大事な人の身代わりのような……微妙な関係のまま生きていく姿というのは、とても魅力的だと思った。

 でも、中学から高校時代にこのマンガを読んでいたら、たぶん

「って、ちょっと待ったらんか〜い!! 男だったら、ぜったい綺麗なお姉さんを仲間にするだろ〜!!」

と、思春期男子丸出しの感想を持っていたに違いない。大人になってから読んでよかったと心底思った。

 少女マンガの多くは、少年マンガに比べて心の機微が多く描かれる。『ポーの一族』もまた、主人公エドガーがなぜ妹メリーベルを溺愛しているのか。そしてなぜ、アランをポーの一族に迎え入れたのか、など……とても心の機微を大事にしている。

 かといって、ただ感情だけを描いて、物語がふわふわと流れることはなく、エピソードの整合性はキチンと取れている。さまざまな国を渡り歩き、さまざまな舞台に登場しつつも、一貫した筋がブレない。とても俯瞰した場所で、ストーリーを見ている感じ。手塚治虫の長編作品に近い印象を受けた。

 しっかり物語が作られているのだが、1話1話は断片的なため、それぞれのエピソードには、語られない部分や謎が常に残るようになっている。この部分を推察するのが、ファンにとっては妄想をふくらませられて、何より楽しい部分だと思う。

 バンパネラについては、萩尾望都作品として『11人いる!』のイメージが強かったため、科学的な視点で語られるのかな? と思ったが、終始おとぎ話的な存在として語られていた。最近のヴァンパイアものは、科学的なアプローチが多いので(特にゾンビものの流行後、ウィルス発症のパターンが増えたと思う)、逆に新鮮に感じた。

 最後になんで『ポーの一族』は“ポー”なんだろう……? と考えていたら、エドガーとアランとポーで『エドガー・アラン・ポー』だと気がついた。

 わお、ダジャレだぜ!!

●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/

『ポーの一族』の“ポー”とはもしや……? 少女マンガならではの美しさで描かれた“不老不死モノ”の魅力のページです。おたぽるは、漫画マンガ&ラノベ作品レビュー連載の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!