SF作家・平井和正氏逝去――リアル犬神明をも生み出した、これからの世代に伝えたい“あの熱狂”

1501_genma.jpg幻魔大戦第1巻(KADOKAWA)

 1月17日、『ウルフガイ』シリーズ、『幻魔大戦』シリーズなど、膨大な作品を手がけてきた作家・平井和正氏が永眠された。平井氏の作品がどれだけの人々を熱狂させたかは、寄せられたその死を惜しむ声からも一目瞭然だろう。

 思い返せば、『8マン』(講談社/画:桑田次郎)の原作に始まり、『ウルフガイ』『幻魔大戦』と主要著作の合間にも、ライトノベルの元祖とも称される『超革命的中学生集団』(朝日ソノラマ)など……ジュブナイルからハードボイルドなものまで、平井氏は膨大な作品を描き続け、多くの人々を熱狂させてきた。

 平井氏の作家デビューは、1961年に第1回空想科学小説コンテスト(ハヤカワ・SFコンテストの前身)を受賞した『殺人地帯』。1963年からはマンガ『8マン』の原作を手がけて、大ヒット。1967年に石ノ森章太郎(当時は石森章太郎)との共作として始まった『幻魔大戦』を、平井氏は生涯を続けて執筆し続けてきた(小説版は1979年から)。また、もう一つのライフワークである『ウルフガイ』シリーズは1995年に『犬神明』全10巻で一旦完結するが、翌年からは『月光魔術團』をスタート。その短編、中編等々のさまざまな作品を含めれば、驚くほどの作品を執筆してきた。なにしろ新書サイズの小説が二カ月に一度あまりのペースで刊行されてきたのだから。

 それらの作品の世界観、そして人物描写が呼び起こしたのは熱狂である。ともすれば仰々しいようなキャラクターたちの立ち振る舞いや言葉、それらすべてが少年期から青年期の読者を魅了するものだった。今、文章を生業とする人々の中で、平井作品のようなものを書きたいと考えたことのないほうが少数だろう。

 その熱狂の象徴的な事例が『ウルフガイ』シリーズの主人公である犬神明を自称して、平井氏にコンタクトを取る者までが現れたほど。しかも、平井氏はこの“犬神明”と対談を敢行。徳間書店が発行していた雑誌「SFアドベンチャー」1986年8月号には「平井和正VS犬神明 特別対談 スーパーヒーロー“ウルフガイ”があらわれる!」という記事まで組まれている(なお、平井氏の公式サイトでは、この模様の一部が動画で見られる/http://www.wolfguy.com/realw.htm)。

 この“犬神明”、どう見ても中二病の類いだが……それを真面目に相手にするあたり、平井氏はすでに作家を超えた“何か”になっていたに違いない。

 なにせ新興宗教にハマって作風が変わったり、評論家・中島梓に「言霊使い」と評されてからは、その肩書きを自称。この背景には『狼男だよ』改竄事件(勝手に原稿を修正後出版され、平井氏が激怒した事件)などを経て、自身の文章に絶対的な自信とこだわりを持っていたこともあるだろう。言霊使いゆえに「一度書いた原稿は直さない」とも噂される実力は、今でも多くの作家が目指すところである。一方で『めぞん一刻』(小学館)を愛好し、『女神變生』(徳間書店)などでマンガ家・高橋留美子氏とコラボしたり……。とにかく作品の幅広さは無限大だったといえよう。

 平井作品の評価、その人生については、これからさまざまに論じられていくだろう。それよりも筆者が渇望しているのは、やっぱり平井氏の作品をもっと紙で読みたい、という思いだ。草創期から電子書籍での出版に可能性を見ていたゆえか、現状、平井作品は紙よりも電子書籍のほうが数が多くなっている。それでも、多くのファンにとって、平井作品の思い出は薄くて巻数の多かった角川文庫版の『幻魔大戦』、新書版で全10巻もあった『ウルフガイ』シリーズの完結編『犬神明』などど共にあるのではないか。

 おそらく、平井氏の作品を多く刊行してきたKADOKAWAや徳間書店には、逝去の悲しみと共にそうした想いを持っている編集者もいるはず。書店での偶然の出会いを生み出す紙媒体での刊行(それも文庫とかで)が、どっと増えることを期待してやまない。
(文/昼間 たかし)

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