アイドルライターが語る“仮面女子” あるメンバーからの手紙に隠されたアイドルへの強い思い【コラム前編】

2015.01.10

仮面女子公式サイトより。

――1月1日にリリースしたシングル「元気種☆」が、インディーズ女性アーティストとして初めてオリコン週間ランキングで1位をとり、1月7日には地上波での冠番組『仮面女子のやっぱ 全力だね~!』(テレビ東京系)が始まった仮面女子。2015年、順風満帆にスタートをきった彼女たちだが、8日発売の「週刊文春」(文藝春秋)が衝撃的なニュースを報じた。内容は、事務所の社長がテレビ番組での“ヤラセ”やメンバーに対する性行為を強要したというもの。本稿は、この件に対して批判するわけでもなく、擁護するものでもない。仮面女子を取材し続けてきたいち記者が、彼女たちへの思いを綴ったものである。

 今でこそ、某国民的アイドルグループをしのぐ立派な常設劇場P.A.R.M.Sを東京・秋葉原に持っている彼女たちだが、筆者が取材を始めた頃は、常設劇場など想像もできなかった。当時はまだ、“仮面女子”という言葉もなければ、事務所を代表するユニットは、のちに仮面女子の核となるアリス十番だけ。東京・芝浦にあるライブハウスStudio Cube 326の2階で、「シバポップフェスティバル」と題したライブを定期的に行っていた時代だ。アリス十番が掲げる武器も、どこか安っぽい。一番見栄えのあるチェーンソーも、血をイメージしたペイントが手作り感を醸し出していた。

 数年前まではそんな状態だった彼女たちだが、今では事務所を牽引する姉妹ユニットも増え、常設劇場や地上波の冠番組まで持ち、今年の11月23日にはさいたまスーパーアリーナでワンマンライブを行うまでの規模に成長した。それは偏に、彼女たちがまっすぐ夢に向かって努力をしてきたからこそだ。

 アリス十番の候補生ユニットとしてOZ【編注:当時はOZの上位ユニット・スチームガールズはなく、OZがアリス十番の候補生ユニットという位置づけだった】がデビューしたとき、筆者はとあるアイドル誌で彼女たちのデビューを取材した。メンバー一人ひとりにデビューの感想を聞き、写真を撮り、紹介は1/2ページ。当時の筆者は、たまたまアイドル誌の編集をすることになっただけで、アイドルに詳しくなければ、興味もほとんどなく、ただ仕事として記事を作ったといっても過言ではないページだった。

 しかし、その雑誌が発売されてしばらくすると、事務所であるアリスプロジェクトの住所から、かわいらしい封筒で2通の手紙が届いた。それは、取材をしたOZのメンバーからのもので、デビューを取材してもらって本当にうれしい、この初心を忘れず、いつか表紙を飾れるアイドルになりたいといった、取材のお礼を綴ったものだった。後にも先にも、取材したアイドルから、感謝の手紙をもらったのはこれだけだ。この手紙を受け取り、筆者のアイドル取材に対する姿勢も変わった。どんな取材でも、彼女たちにとっては、夢が叶っていく軌跡。ファンが喜ぶものだけでなく、アイドルである彼女たちにとっても、成長の記録や思い出になる記事を作ろうと。おそらく、彼女たちからの手紙がなかったら、筆者は今、こんなにも熱心にアイドル業界で仕事をしていなかったかもしれない。

 しかし、そのときはまだ、新人の子が喜んでくれたという認識しかなく、その手紙の“本当の重み”は理解できていなかった! その後、仮面女子の取材を続けていく中で、手紙をくれたメンバーのひとり、桜雪の生い立ちをインタビューする機会に恵まれた。その中で、彼女は、アイドル活動をしたかったが、東大受験というもうひとつの目標のために、事務所創設期から所属していたにも関わらず、ずっとステージに立つことができずにいたジレンマと苦悩を語ってくれた。この話を聞いたとき、彼女がOZとしてデビューしたときのインタビューで、「ようやくステージに立てた」と笑顔で語ってくれた意味、そして、取材のお礼の手紙を書いた意味が、ようやくわかったのだった。

 桜雪に関しては、それ以前にも、彼女がトップユニットのアリス十番に昇格したときもお祝いを兼ねて取材に行き、OZデビュー時の記事やいただいた手紙も持っていったのだが(もちろん、懐かしんで喜んでくれたが)、まさかそんなにも深い思いがあったとは、そのときもまだ知らなかった。本当に、取材を重ねていくごとに、どういう思いで彼女たちが今、そのステージに立っているのかがわかってくるのだと思った次第……。

 ステージで見せる姿やメディアが伝える彼女たちの言葉は、彼女たちの思いや努力の氷山の一角でしかない。今でも、筆者はアイドルファンではないが、取材を通して彼女たちと触れ合うことで、メディアでは伝えない彼女たちの姿を客観的に知ったからこそ、仮面女子を応援していきたいと思うようになった。

 取材で訪れた際、P.A.R.M.Sのオープン前に、ロビーでひたすらダンスの練習している研究生の姿などを横目で見たり、夜遅くまで練習していてほとんど寝ていないという話をぽろっとしているのを聞いたり、そうした日頃からのひたむきな姿を見ているからこそ、この子たちは本気なんだと思うし、だからこそ、もっと大きいステージで輝いてほしいと思ってしまうのだ。
(文・桜井飛鳥)

※後編では、独自の視点から「NHKのドキュメンタリー番組」などについて語ります。

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