身体にヒビが入り皮膚がただれている“醜い”設定は、サム・ライミの映画『ダークマン』を思い出した。ダークマンは全身のやけどを人工皮膚で覆っていて誰にでもなれるし、痛覚がないため恐ろしい怪力を出せるが、その皮膚は99分で死滅してしまう。
本人の人格と、内なる暴力性人格が乖離して戦いを繰り広げる所は、筒井康隆の『おれの血は他人の血』の主人公と類似している。同作の主人公は普段はどこにでもいる普通のサラリーマンだが、怒りに火がつくと、意識がなくなった後、めちゃくちゃな暴力を振るう。
……と、『バオー』読書後、しばらく考えてみたら少し似ている作品をポツポツと思いついたのだが、実際に読んでいると、何かの作品に似ているとは思わない。荒木飛呂彦の作品は、スティーブン・キングの小説やさまざまな音楽、映画などから強い影響が見られるのだが、それぞれの要素が集められてひとつの作品になった結果、「荒木マンガ」として成立している。氏の強烈な個性が、勝ってしまうのだ。
その個性のひとつが、『ジョジョ』に代表される独特な擬音や言い回しだろう。『バオー来訪者』の頃には、すでに登場している。
「ウオオオオ~ム バルバルバル!!」
というバオーの独特の鳴き声。
「これがッ! これがッ! これが『バオー』だッ! そいつにふれることは死を意味するッ! 武装現象ッ!(アームド・フェノメノン)」
という過剰なナレーション。一度読んだら忘れられない。
また、キャラクターもとても個性的だ。どの人物も自分の信念に対して、とても真っ直ぐで、ウジウジしていない。しかも、主人公はもちろん、敵キャラまでもが前向きなのが面白い。“清々しいほど悪いキャラ”というのは、ほかのマンガではあまり見ない。
『ジョジョの奇妙な冒険』のディオ・ブランドーは、悪キャラの界いちの人気者だが、『バオー来訪者』の中にも、マッドサイエンティストの霞の目博士、最凶の超能力者ウォーケンなど、個性的な悪役は多数登場する。
それらキャラクターたちが持つ能力も、ただ単にオーバーな表現で荒唐無稽なのではなく、科学的な説明がつけられているのも特徴だ。バオーだけでなく敵キャラの必殺技にも、SF作品として通用する解説がなされている。そこがまた、男の子の感性をくすぐるのだ。
『バオー来訪者』の第1話を読んで荒木飛呂彦の虜になってしまった小学6年生の僕は、30年経った今も、『ジョジョリオン』の新刊を買っている。彼の濃すぎる個性は、今なお色あせてはいなかった。
●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/>
「これがッ!これがッ!これが『バオー』だッ!」『ジョジョ』を生んだ荒木飛呂彦の個性を凝縮した『バオー来訪者』のページです。おたぽるは、人気連載、漫画、作品レビュー、連載、名作プレイバック、村田らむ、バオー来訪者の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!
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