こんなに違うぞ!!『ベイマックス』 予告編に気持ちよく裏切られる映画と原案比較

2014.12.26

ディズニーのベイマックス公式HPより。

『ベイマックス』が公開されて早幾日かが過ぎた。実際ご覧になられた方はどう思ったんだろうか? 「あれま、予告編の、少年とロボットの心の交流を描く感動ものではないんじゃないか?」「アクションものなのでビックリした」「ディズニーが作った戦隊ものって意外!」などなど……。

 予告編の見た目に、映画の第一印象をミスリードされた人が多かったに違いない。確かに騙されたと思うが、それでもって「金返せ!」と怒った人はいないと思う。展開する物語は我々日本人が小さい頃から慣れ親しんできたヒーロー戦隊的な世界観であるし、実際にヒロとベイマックスの心の交流が描かれているわけだし、日本のロボットアニメではお馴染みのロケットパンチがもう実にうまい使われ方をしてて、最終的にはググッときちゃうわけだ。

『ベイマックス』の原題は『BIG HERO 6』(以下、『ビッグ・ヒーロー6』)。ディズニーが初めて劇場版長編として、マーベルコミックスの原作をアニメ化したのが本作だ。『ビッグ・ヒーロー6』は元々『X-メン』から派生した物語だ。1998年に刊行された『サンファイヤとビッグ・ヒーロー6』が初出。この時のメンバーはサンファイヤをリーダーにした、シルバー・サムライ、ベイマックス、ゴーゴー・トマゴ、ヒロ・タカチホ、ハニーレモンの6人。映画『ベイマックス』の原案となったのは、2008年に刊行された2期メンバーが活躍するほうで、ベイマックスとヒロ・タカチホを中心に、ゴーゴー・トマゴ、ハニーレモンに、新メンバーのフレッドとワサビ・ノー・ジンジャーが加わる。日本を舞台にして日本のポップカルチャーを意識したデザインや設定のヒーローが活躍する不思議な作品であったが、高い人気を獲得することはできなかった。

 今回、ディズニーがマーベル作品を原作に劇場アニメを作る際に、マイナーではあるがユニークな作品であることから、原案として採用されたのがこの『ビッグ・ヒーロー6』なのだ。それでは、『ベイマックス』と『ビッグ・ヒーロー6』では、メインキャラの設定がどのくらい違うのかをみていこう。

ディズニーのベイマックス公式HPより。

『ベイマックス』
ヒロ・ハマダ

天才的な科学の才能を持つ14歳の少年。両親はすでに他界しており、唯一の味方であり理解者は兄のタダシ。タダシの勧めでサンフランソウキョウ工科大学へ飛び入り入学を目指す。

『ビッグ・ヒーロー6』
ヒロ・タカチホ

天才少年で両親は他界して叔母と暮らしているのは同じだが、兄タダシはいない。ベイマックスもヒロが造り上げた。



ディズニーのベイマックス公式HPより。

『ベイマックス』
ベイマックス

タダシ・ハマダが設計開発した心と体のケアロボット。戦闘能力はほぼ皆無。ヒロによってカンフーなどの戦闘能力をプログラミングされるも、基本はケアロボットであるため、戦うことを拒否する。フォルムも風船に鈴のような頭の乗ったおよそ戦いからかけ離れたものとなっている。

『ビッグ・ヒーロー6』
ベイマックス

ヒロが造り上げた人工生命体。ドラゴン形態や人間形態にメタモルフォーゼが可能。基本的には日本のロボットアニメを思わせるゴツゴツとしたロボット形態で戦う。内蔵チップにヒロの父親の思考と感情がメモリされている。普段はマッチョな人間態でヒロのボディガード、あるいは執事として勤めている。



ディズニーのベイマックス公式HPより。

『ベイマックス』
ハニー・レモン

サンフランソウキョウ工科大学の学生。メガネで長身の女性で化学反応のエキスパート。ぶつけるとさまざまな化学的変化を引き起こすボールを武器に戦う。ボールはヒロが作ったハンドバッグ状の装置の中で作られる。

『ビッグ・ヒーロー6』
ハニー・レモン

マーシャルアーツの達人。内閣情報室に籍を置く。小型人工ワームホールの集合体「パワーパース」と呼ばれるナノ財布から、事前に収納したさまざまな道具を取り出すことが可能。本名「ミヤザキ・アイコ」。



ディズニーのベイマックス公式HPより。

『ベイマックス』
ゴー・ゴー

サンフランソウキョウ工科大学に通うタダシの友人。クールでぶっきらぼうな性格の黒髪の女性。電磁サスペンションを使った反重力バイクを開発中。これを応用した車輪をパワードスーツに直接装着することで超高速移動して戦う。

『ビッグ・ヒーロー6』
ゴーゴー・トマゴ

元暴走族の少女。釈放と引き換えに、特殊スーツのテスト兵になる。 このスーツは、自分の体を爆発的なエネルギーに変えて、敵に突貫する。能力起動は音声認識で、自身の名を叫ぶ必要がある。ビッグ・ヒーロー・シックスに参加するために刑務所から釈放された。本名「タナカ・レイコ」。宇都宮出身。



ディズニーのベイマックス公式HPより。

『ベイマックス』
ワサビ

サンフランソウキョウ工科大学に通うタダシの友人。大柄な黒人男性。彼の発明はなんでも切れるレーザーカッター。それを応用したレーザーブレードを両腕に内蔵させたスーツで戦う。

『ビッグ・ヒーロー6』
ワサビ・ノ・ジンジャー

寿司職人にして刀の達人。あらゆる剣を使って戦う。また気の使い手でもあり、気のエネルギーを実体化したクナイで敵を麻痺させることが可能だ。



ディズニーのベイマックス公式HPより。

『ベイマックス』
フレッド

サンフランソウキョウ工科大学に通うタダシの友人。大学のマスコットキャラを務めている青年。本名は「フレデリック」。SFやスーパーヒーローが大好き。ジャンプ力強化や火炎放射、三つ目の怪獣の着ぐるみを着て戦う。

『ビッグ・ヒーロー6』
フレッド

自身の力をゴジラのような生きものの姿に凝縮して、これを操る。『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズに登場するスタンドのような能力の持ち主。Fredzillaとあだ名をつけられている。

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 メインキャラクターはこんなに設定が違っているのだが、原作の持ち味は巧みに取り入れられている。キャラハン教授と行方不明の娘・アビゲイルの関係にも、原作を深読みすればなんとなくアレの設定をアレンジしたのではないか? などと、いろいろ考え始めてしまう。それくらい『ベイマックス』は原案とは言いながらも『ビッグ・ヒーロー6』関連の作品群を読み解いて、映像へとフィードバックしている。そこが本作のすごいところで、ここでは紹介しきれないことばかりだ。

 まずは劇場へ足を運び、予告編で得た印象を気持ちよく裏切られることから始めていただきたい。その上で「あの予告編、嘘はついていなかったな」と苦笑いしつつ、本作を大いに堪能してほしい!
(文/加藤千高)

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