安田理央の「特殊古書店ダリオ堂」 第11回

SM小説を雑誌掲載時の誌面で自家製本!性器をわざわざ描き足したマニアの情念に胸熱

――ようこそ、「特殊古書店ダリオ堂」へ。当店では、ちょっと変わった本たちを皆様にご紹介していきましょう。

SM小説を雑誌掲載時の誌面で自家製本!性器をわざわざ描き足したマニアの情念に胸熱の画像1『美しき牝犬の挽歌』(杉村春也・著/出版社・発行年不明)

 今回紹介するのは、SM小説の巨匠・杉村春也の『美しき牝犬の挽歌』です。杉村春也は筆者が最も好きな官能作家で、羞恥責めのシチュエーションと描写が実に素晴らしいんですね。代表作である『英語教師・景子』は、まいなぁぼういによるコミカライズ『景子先生の課外授業』シリーズでも大ヒットしました。こちらで知っている人も多いんじゃないでしょうか。

 官能小説の名門フランス書院の看板作家でもあり、その作品のほとんどがフランス書院から販売されています(『性奴・由美』という作品のみが大陸書房のプラミッド文庫からの発売)。

 しかし、この『美しき牝犬の挽歌』はフランス書院からの発売ではありません。それどころか、どこの出版社からも発売されてはいない、いわゆる非売品です。その内容自体は、フランス書院文庫から1990年に発売された『女教師監禁生活』と同じなのですが。

 実は『美しき牝犬の挽歌』は、SM雑誌である「SMセレクト」(東京三世社)に連載されていた時のタイトルで、単行本化にあたって『女教師監禁生活』に改題されたのです。そして、この『美しき牝犬の挽歌』は、その連載時の誌面をコピーして製本した、自家製本なのですね。

SM小説を雑誌掲載時の誌面で自家製本!性器をわざわざ描き足したマニアの情念に胸熱の画像2

 筆者は神保町の古書店で本書を発見したのですが、棚にはほかの作家の作品も数冊ありましたので、自家製本をするのが好きなマニアの方の手によって作られたものが、なんらかの理由で古本市場に出たのでしょう。

 両面コピーではなく、片面コピーを貼りあわせているのでゴワゴワしているし、表紙もワープロで打ったタイトルを貼り付けただけのそっけないもので、決して見栄えのいい出来ではありません。しかし、それだけに手作り感にあふれて、マニアならではの情念が伝わってきそうです。

『美しき牝犬の挽歌』は、1981年に「SMセレクト」に短期集中連載された中編で、その全3回分の全ページがコピーされています。

 美しい女性が、ヤクザなどによって監禁され徹底的に辱めを受けるというのが杉村春也作品の基本パターン。本作もまた、過激派の活動家を恋人に持つ美人教師が、対立派を装ったヤクザによって監禁され、地元の名士たちの性奴隷として調教されてしまう……というストーリーなんですが、ほかの作品に比べバイオレンス描写が目立ち、陰惨な印象が強い異色作です。なにしろラストでは、登場人物全員が爆弾で吹き飛んでしまうんですから。

SM小説を雑誌掲載時の誌面で自家製本!性器をわざわざ描き足したマニアの情念に胸熱の画像3

 ファンにとってこの自家製本の嬉しいところは、雑誌掲載時そのままの誌面が見られるということ。つまり、単行本化される時にはカットされてしまう挿絵を見ることができるんですね。この『美しき牝犬の挽歌』では、「SMセレクト」ではおなじみの前田寿按(前田寿安)がイラストを描いています。SM雑誌を愛読していた者としては、この挿絵があってこそのSM小説なんですよね。

 しかし、このイラストをよく見てみると、ご法度のはずの女性器がしっかりと描かれています。製本した人が自分で描き加えたんでしょう。こういうところにも、マニアの情念が感じられて、胸が熱くなりますね。

 おそらく世界で1冊だけであろう、この『美しき牝犬の挽歌』。どういう事情で古書店の店頭に並べられることになったのかを想像すると、不思議な気持ちになります。製本した方は、まだご存命なのでしょうか……?
 
安田理央(やすだ・りお)

SM小説を雑誌掲載時の誌面で自家製本!性器をわざわざ描き足したマニアの情念に胸熱の画像4

1967年、埼玉県生まれ。主にフリーライター。及びアダルトメディア研究家、ニューウェーブ歌手、など。主な著書に「日本縦断 フーゾクの旅」 (2004年 二見書房)「エロの敵 今、アダルトメディアに起こりつつあること」(2006年 翔泳社 雨宮まみと共著 )、「45歳からのアニメ入門」(2013年 Kindle 田口こくまろと共著)などがある。
●公式サイト<http://www.lares.dti.ne.jp/~rio/
●公式ブログ<http://rioysd.hateblo.jp/

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