アニメ業界人が語る、ひそひそ秘話 【第4回】

婚活なんかやってるヒマはない!? 『SHIROBAKO』を通して見る、アニメ制作現場で働くリアル“女子事情”

■増加する“女性進行”の背景

 以前と比べて最も増えたのは、『SHIROBAKO』の主人公・宮森あおいと同じ制作進行でしょう。制作進行とは、“スケジュールを管理して、お金やスタッフを調整し、作品を作るサポートをする役職”【『アニメを仕事に!』(舛本和也/星海社新書)より引用】です。女性の制作進行増加は、アニメのデジタル制作化に比例していると思って間違いありません。“仕事に必要な体力の絶対量”が減ったことが、その背景にあります。

 アナログセルアニメでは、『SHIROBAKO』でもおなじみのカット袋に画稿とともに動画枚数分のセルも収められます。単純に言って、デジタル以前のカット袋の重さは、現在の倍から3倍。それら大量のカット袋を半透明の衣装ケース(通称 おかもち)に入れて進行車に積み込み、昼夜問わずアニメ制作会社がひしめき合う西東京を爆走するのです。体力勝負であったことはおわかりいただけるでしょう。

 また、セルに線画を転写する作業(マシンがけ)も制作進行の基本作業でした。紙の動画と透明セルの間にカーボン紙を挟み、1枚1枚トレスマシン(家庭用真空パック機のおばけみたいな機械)に掛ける作業です。動画枚数3000枚の作品なら、それを3000回行います。さらに、今ではコンピュータ上の撮影作業で表現される画面効果も、アナログアニメではパラフィン紙や色セロファンなどを駆使した“図画工作”の末に実現されており、それら撮影用素材の準備も制作進行の仕事でした。「それは撮影部の仕事では?」とお思いかもしれませんが、撮影さんはあくまで「届いた素材を演出さんの指示どおりに組み合わせて撮る」のが仕事であり、厳密に役割分担されていました。必要素材を作る膨大な工作仕事は、演出の指示のもと、制作進行が請け負っていたのです。それらの手間がデジタル化によって各セクションに吸収され、体力仕事がやや減ったことで、女性の活躍できる場が増えたと言えます。

 もちろん、だからといって制作進行の仕事がラクになったわけではありません。業務を依頼した会社や自宅作業のアニメーターに夜討ち朝駆けで素材の入れ・回収に向かうのは当然のこと、3Dを使う作品が増えたことで求められるコンピュータの知識は増大し、その工程管理も同時進行です。頭を使って工程の隅々まで理解し、多くの素材を管理・運搬し、時間に追われながらスタッフ間の連携をとる。一筋縄ではいかない仕事であることに変わりありません。

 しかし、ひとたび制作進行に女性が増えてくると、現場には総じてよい影響がもたらされました。時間に追われ殺気立ったスタッフも、むくつけき男より若い女性に追っかけ(=スケジュール管理)られたほうがささくれだたずに済むというものだし、こまやかに人の気持ちをくみ取れる女性はアニメのマネジメントに向いていたのでしょう(例外もあるのは言わずもがなですが……)。

 そんな効果を見込んでなのか、制作進行だと、あまりにオタクっぽい・腐女子っぽい・内向的などのタイプは採用の時点ではじかれがちです。コミュニケーションの上手い、陽性の明るさを持った女性のほうが適性は高いと見られ、実際に長続きする傾向があります。

 給料待遇面では男性と変わるところはなく、性別で出世に差があったりということもありません。常に有能な人材を求めているこの業界、性別などで差別している場合ではないのです。一方、女性だからといって優遇されることもないわけで、たとえば生理休暇なんてものを用意したスタジオを筆者は聞いたことがありません。そういう意味ではこの業界、「まだまだ改善の余地あり」だと感じさせられます。

三鷹の森ジブリ美術館ファンブック―迷子になろうよ、いっしょに。 (ロマンアルバム)

三鷹の森ジブリ美術館ファンブック―迷子になろうよ、いっしょに。 (ロマンアルバム)

宮崎駿さんも、仕上げ女性と作画男性の出会いが少なくなったって嘆いてました。

婚活なんかやってるヒマはない!? 『SHIROBAKO』を通して見る、アニメ制作現場で働くリアル“女子事情”のページです。おたぽるは、アニメ話題・騒動連載の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!