かつては規制法案が審議されたことも!? 今明かされる英国の“インベーダーブーム”狂騒曲

 1970年代終盤、日本のみならず世界中で大ヒットしたビデオゲーム『スペースインベーダー』。今年はスマートフォン向け『アルカノイド VS スペースインベーダー(仮)』の開発や、アメリカのワーナー・ブラザースによる映画化が報じられるなど、今なお絶大な人気を誇るタイトルだ。そんな本作は同時に、当時の社会にさまざまな波紋を投げかけ、今日の“ネット依存症”や“スマホ依存症”にも繋がる問題を提示したといえるのかもしれない。社会現象にもなった“インベーダーブーム”に沸く1981年、なんとイギリスの国会では「インベーダー規制法案」が審議されていたのだった。

■スペースインベーダーは英国でも社会問題に

 遡ること33年前の1981年5月20日、イギリス下院議会ではジョージ・フォルケス下院議員(労働党)が提出した「スペースインベーダー及び他のビデオゲームの規制法案(Control of Space Invaders and Other Electronic Games)」の審議が行なわれたのだった。結果的には反対114、賛成94で否決されたこの法案であったが、22分間の審議中、フォルケス議員はスペースインベーダーがいかにイギリスの若者たちに悪影響を与えているのかを実例を挙げ、文字通り社会を侵略する“脅威”であると力説したという。

 フォルケス議員の意見表明では、スペースインベーダーによって健全な生活を損なわれた人々の具体的な事例が紹介された。例えばシェフィールドに住む母親は、このゲームに夢中になっているときの14歳の我が子はまるで“ジキル”から“ハイド”になったかのように変わってしまうと訴え、ゲームセンターに入り浸って10日間も家に戻らなかったロンドンの13歳の男子生徒などの話も引き合いに出している。さらに悲惨な出来事として、少年がゲームを遊ぶ金欲しさに人をゆすったりスリを働いたりする例も挙げ、中でもロンドンの17歳の少年は、性的関係を持った聖職者の男に秘密と引き換えに900ポンド(日本の感覚でおよそ10万円)を要求していたケースにも言及している。

 これらの事例はフォルケス議員が実際に人々から話を聞いて集めたものである。選挙地盤であるサウス・エアシャーのカムナックにある学校を参観した際には、生徒たちが給食代の小銭を持ったまま昼休みにゲームセンターに行ってしまい、そのまま学校に戻ってこない事態を目の当たりにしたという。本家日本でもブームの絶頂期には一部で社会問題となり「インベーダーゲーム禁止令」を生徒たちに言い渡す学校もあったが、イギリスでもかなりの社会問題になっていたようだ。

■“サッチャー改革”黎明期の時代背景

 議会でしばらく続いたフォルケス議員の意見表明に異を唱えたのは、マイケル・ブラウン下院議員(保守党)であった。ブラウン議員はフォルケス議員の主張を「常軌を逸し、ばかげている」と一蹴し「この法案は庶民の他愛ない楽しみを奪うものだ」として真っ向から反対したのだ。そして5分間ほど続いたブラウン議員の反対意見の後、裁決が行われ、この法案は却下されることになる。

 フォルケス議員の法案が20分ほどの審議で否決されたのは、時代背景も大きく影響しているのかもしれない。1960年代から70年代いっぱいまでイギリス国民は不況と高い失業率に苦しめられ、経済政策失敗国家の代名詞でもある「イギリス病」という言葉まで生み出すほどに低迷していた事情がある。79年に保守党のサッチャーが首相に就任し、それまでの国営企業優先の経済を改め、民間活力を促進させる経済政策へ転換が図られていた矢先のことであったのだ。ブラウン議員の反対意見の中には「ゲームを規制するのは社会主義的な政策である」とするフレーズもあった。

 法案が否決されてから33年、現在、フォルケス議員は上院議員として今なお政治活動に従事している。地下鉄に乗れば車内で携帯ゲーム機やスマホ、タブレット端末でゲームに興じる若者の姿が今やありふれた光景になりつつあるが、フォルケス議員は決して33年前の法案提出を後悔していないという。

「下院議員にとって重要なのは、支持してくれた選挙区民の心配事に対処することだ。決して個人的な関心や懸念などではなく、地域を代表して問題に対処しなければならない。選挙区民のために正しいことをしなくてはならないというのが、この26年間の私の政治生活のモットーですよ」とフォルケス議員は「BuzzFeed」の記事の中で述べている。

「孫たちは今、XBoxなどのゲームにとても夢中なんだ」と、一方でフォルケス議員は家族の内輪話もしている。「しかし、私は決して孫たちからゲーム機を取り上げようとは思わない。ただ、ゲームで遊んでもよい時間を制限するように親に忠告している」と結んでいる。

 たかだか30年、しかしされど30年、当時と今とではゲームを含む社会のデジタル環境にはまさに隔世の感がある。もし当時、法案が可決されイギリスでスペースインベーダーが規制されていたなら一体どんな影響があったのか、今となっては想像することも難しそうだ。自身の政治生活の総仕上げの時期に入ったフォルケス議員に、今後何か動きがあるのだろうか。ただ、今やイギリス国内だけでこの種のことを規制しようとするのは極めて困難であることだけは確かだろう。
(文/仲田しんじ)

【参考】
・「Polygon」
http://www.polygon.com/2014/11/30/7309617/british-lawmaker-revisits-his-infamous-anti-space-invaders-bill
・「BuzzFeed」
http://www.buzzfeed.com/jamieross/the-uk-parliament-debated-space-invaders-in-1981-and-it-was
・「佐賀新聞」
http://www1.saga-s.co.jp/koremade/timetrip/39/02.html
ほか

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