Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第21回

『三つ目がとおる』で手塚治虫が描いた写楽の極悪非道さと和登さんのエロさはやっぱりすごかった!

 写楽が唯一気を許す相手が、同じ学校に通う和登千代子である。ショートヘアの男まさりなキャラクターで、絆創膏バージョンの写楽の面倒を見る係になっている。

 ただ、本心では絆創膏を外した写楽に恋をしている。写楽も、和登さんには母親に対する愛情と、女性に対する愛情の、入り混じった感情を持っている。……と、ここで気がついたのだ。小学校の僕がなぜ『三つ目がとおる』に食いついたのかを。それは和登さんのエロチックなシーンに食いついたのだった。

 小学校低学年の僕にとって、リアルな女性の裸が描かれたシーンを読むのは初めてだった。手塚治虫の作品が、実はエロいというのは、『ふしぎなメルモ』だの『ばるぼら』だの例を出すまでもなく、最近ではよく知られているが、マンガ音痴のうちの両親は知らなかったはずである。

 今読んでも、和登さんはなかなかキュートなキャラクターだ。冒険中に裸になると、しばらく裸のままで、なんだかこっちまで、落ち着かなくなってしまう。40超えたオッサンまでドキドキさせる、手塚治虫はやっぱりすごい!!

 写楽保介と和登千代子(和登さん)の名前は、シャーロック・ホームズとワトソンからきている。なぜ名探偵の名前をチョイスしたのかと言えば、写楽と和登さんが、古代の謎や、遺跡の謎を、解き明かしていくからだろう。今思えば、古代文明や超能力などは、連載当時の流行りだったのだ。

 ちなみにユリゲラーが最初に日本のテレビに出たのが1974年。魔のバミューダトライアングル、サルガッソーなどなど、オカルトブームだったのだ。そのブームに手塚治虫が寄せていった形だった。

 1960年代後半、実は手塚治虫の人気は下降気味だった。劇画など、新しい風に追いやられていた。しかし『ブラック・ジャック』で息を吹き返し、『三つ目がとおる』はその後に、始まったマンガだった。その後、『ブッダ』『MW』などの連載も始まり、マンガの神様としての地位を確立した。

 当然、そんな話を小学生の僕は知らなかった。写楽が唱える呪文を覚えるのに必死だった。やっと覚えた

『アブトル・ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク われとともり来たり われとともに滅ぶべし』

はいまだに忘れていない。

 その後、『臨兵闘者皆陣列在前』だの『オンキリキリバサラウンハッタ』とか、いろいろ覚えたけど、いまだ実生活で役に立ったことはない。

 個人的に一番好きなエピソードは、Kindle版『三つ目がとおる』10巻の7話『暗黒街のプリンス』である。写楽がマフィアに頼まれて、すべてをウンコにするピーナッツ(なんでもあっという間に腐食させる薬)を作る話だ。
 
 なんの罪もないタンカーを人間ごとウンコにしてるくせに、かあちゃんが欲しいと泣く写楽。そして和登さんのヌード。短いけど、とても『三つ目がとおる』らしい話だったと思う。ほかのエピソードも傑作短編がそろっているので、『三つ目がとおる』初体験の人は、10巻から読んでもよいと思う。

●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/

三つ目がとおる 1

三つ目がとおる 1

このかわいい子が極悪非道

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