『月のワルツ』から10周年!『ハナヤマタ』『ノゲラ』…職業アニメ監督として生きるいしづかあつこの半生【前編】

■新人なのに監督の機会が到来 みんなのうた『月のワルツ』制作の経緯

1412_ishiduka_waltz.jpg「NHK みんなのうた」内『月のワルツ』のページより。

 先の新海監督の『雲のむこう、約束の場所』も含め、いしづかさんがマッドハウスに入社した04年は、押井守監督の『イノセンス』、大友克洋監督の『スチームボーイ』、宮崎駿監督の『ハウルの動く城』と話題の長編映画が立て続けに公開され、“アニメイヤー”と称されていた年でもあった。

 その当時のマッドハウスは、今敏監督のテレビシリーズ『妄想代理人』の放送、一方で同じく今監督の長編映画『パプリカ』(06年公開)、細田守監督の長編映画『時をかける少女』(06年公開)、片渕須直監督のテレビシリーズ『ブラックラグーン』(06年放送)などの企画が進んでいた時期でもあった(会社の体制としては、インデックスによって子会社化)。

いしづか「『千年女優』や『東京ゴッドファーザーズ』といった今監督の作品はマッドハウスを受けると決めてから見て研究したんですけど、『ああやっぱりアニメってすごいんだ!』って。このほかだと、りんたろう監督の『メトロポリス』ですね。そういった作品を見て『こんな人たちがマッドハウスにいるんだ!』と知りました。それから出崎統監督は私たちの年代より上の人からすると巨匠の巨匠で神だと思うんですけど、“昔の作品”ってイメージがあって、それまで見たことがなかったんですよ。『演出家になりたいんだったら、出崎さんの作品を見ておけ』ってプロデューサーに言われて、『あしたのジョー2』『宝島』『ガンバの冒険』を見たら、『こんなに手描きでできるんだ!』って感動しました。

 会社には制作進行職で入りました。面接の時に、先にプロデューサー志望か演出家志望かを聞かれるんですが、私は左脳が弱くて直感でしか生きてないので演出を希望すると、入ってすぐに、テレビシリーズ『MONSTER』の班で設定制作を任せていただけました。マッドハウスでは、本来であれば制作進行から設定制作という段階を踏むべきところですが飛び級です。

 設定制作は各スタッフに『こういう風に描くんですよ』って見本を用意する仕事で、シリーズを通して画面の内容そのものを見続けていくという特徴があります。監督や演出とも密なつながりがあって、監督や演出のイメージやオーダーを常に聞き続けることから、演出希望者に奨励される役職です。たまたま私の場合は、先輩が演出に上がるということで、設定制作の仕事を引き継ぐことになりました。『月のワルツ』の話が来たのは、その途中の04年7月です」

 いしづかさんに『月のワルツ』の打診をしたのは、当時NHKのプロデューサーだった川崎龍彦さん。川崎さんが06年に上梓した新書『「みんなのうた」が生まれるとき』(ソフトバンククリエイティブ)にも、その裏話が書かれている。また今年7月に放送されたNHKアーカイブス『“みんなのうた”のセカイ』でも紹介されている。

いしづか「最初は個人として話が来たので断ったんですが、あらためて川崎さんが曲を持って会社に来てくださって。ウチのプロデューサーと話をしたら『じゃあ会社として請けてみましょうか』となって、プロと一緒に作ることになってしまいました……!

 実はさっきの演出に上がった先輩って、伊藤智彦さん(後に監督としても活躍することになる。最近の監督作品は『ソードアート・オンライン』)なんです。伊藤さんを演出に上げるために下に入ったのに、私が『月のワルツ』をやることになってしまった。そのために伊藤さんが設定制作に戻るっていう、ヒドいことをしてしまったんですよ。なので、いまだに伊藤さんに頭が上がらなくて。『月のワルツ』でテンパってる間に、本来なら私がやらなきゃいけない『MONSTER』の設定制作を伊藤さんが手伝ってくださって……。

『月のワルツ』は『MONSTER』の一部のアニメーターさんから、外注ではフリーの方やジブリのスタッフまで参加してくださいました。とはいえアニメ業界は横のつながりが多いので、特にフリーの方であればいろんなスタジオで仕事されてますし、スタジオもタイミングによってどの作品をメインで請け負ってるかというだけですね。だから、『月のワルツ』にジブリのスタッフが参加したといっても、たまたまその当時ジブリ作品に関わっていた方ということになります」

 このようにして制作された『月のワルツ』は、同年10月の本放送で大きな反響を得ることになった。その後、いしづか監督は本格的にテレビシリーズの監督へと歩み始める。引き続き、後編もチェックしてほしい。
(取材・文/真狩祐志)

後編へ続く

■いしづかあつこ
愛知県出身。2004年、マッドハウスに入社し、NHK「みんなのうた」にて初監督作品『月のワルツ』を制作。その幻想的な映像が話題となる。その後、『MONSTER』『NANA』『ピアノの森』などで絵コンテや演出、助監督を担当。 一方で『ペルソナ4・ザ・ゴールデン』など、ゲームのオープニングムービーも監督。 テレビシリーズの代表作は『さくら荘のペットな彼女』『ノーゲーム・ノーライフ』『ハナヤマタ』など。

■マッドハウス
http://www.madhouse.co.jp/

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後編でも色々聞いていきますよ!

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