猪瀬直樹氏にもう一度だけ聞いておきたかった……都条例のあのこと

 11月29日、都知事辞任以来、公の場に姿を現していなかった作家・猪瀬直樹氏が新著『さようならと言ってなかった わが愛 わが罪』(マガジンハウス)出版記念イベントで、久々に読者の前に姿を現した。

 都知事辞任以来、初めての出版となるこの本は、亡くなったゆり子夫人との出会いと別れを中心に、オリンピック招致活動や、知事辞職に追い込まれた5000万円の借り入れ問題について触れたものだ。そして、この本では、第18回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作である『ミカドの肖像』(小学館)以来、数多のノンフィクションを著してきた猪瀬氏が、初めて自分の人生について記している。

「ロマン」という言葉が似合うこの本についてはぜひ一読してもらうとして、筆者的にも「おたぽる」的にも、もう一度聞いておきたかったのは2010年の東京都青少年健全育成条例をめぐる問題だ。

 この問題の渦中の2010年3月、当時東京都副知事だった猪瀬氏は出演したテレビ番組で、特定のマンガ単行本を例に取り「このような過激な表現物を誰でも入手可能な場所に置くべきではない」と論じ、多くのマンガファンから攻撃される事態となった。そして、筆者も猪瀬氏から「夕張で雪かきをして来たら取材に応じる」というので、夕張まで出向いて雪かきをする事態に……(雪かきのことなんて、もう忘れてると思ってたら会場で初対面の人に「よく知ってますよ」と言われ、赤面)。

 ともあれ、あれから4年がたち、実は猪瀬氏の指摘が正しかったのではないかということも起こっている。今年5月に都条例新基準が初めて適用されたとして話題になった、マンガ『妹ぱらだいす!2』(KADOKAWAエンターブレイン)の事件は、その最たるものだ。2010年の改定で導入された新基準の初適用ばかりが取り上げられている、この事件。けれども、この事件にはもっと大きな問題がある。改定をめぐる議論の渦中では社長自ら反対を声高に唱えた会社が、同事件に際して即座に回収を行い、この問題を沈静化させようとしたことである。議論も反論もなく“なかったこと”で済ませようという姿勢。わずか数年前、同社トップから発せられた「反対」の叫びは、単なるボジショントークか何かに過ぎなかったことを露呈させるものであった。

 そこで、筆者は猪瀬氏に「猪瀬さんの主張のほうが正しかったと思うが、どうか?」と質問を。対する猪瀬氏の答えは明快だった。

「あれは、もう終わったことだから」

 どうだろう。改めて自身の正当性を語るでもなく、この一言ですべてを完結させる格好良さが理解できるだろうか。

 2010年、出版業界はすでに自主規制を行っていることを示してあれだけ正当性を訴えたのに、味方から背中を斬りつけられる事態に至っている。対して、猪瀬氏は今回の出版で再び新たなステージに進もうとしている。この一言で勝負あったな……と感じるのは筆者だけではないはずだ。
(取材・文/昼間 たかし)

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