『アオイホノオ』から20年後の大阪芸大生は今?『ロボットガールズZ』監督・博史池畠インタビュー【後編】

■博史池畠流のキャリアの積み方は? 「ABE48」での募集から新たな才能も

 名残惜しそうに大学を去った池畠監督は、一路東京へ。アニメ演出家になるべく、業界の門を叩くことに。

池畠「アニメ業界は履歴書を送ったら『すぐ来て』くらいの世界なんで、サンライズに制作進行で入って、やめてCGやって、またアニメ業界に潜り込んでって感じです。当時(05年頃)やたらアニメの制作本数が多かったんで、元請けができないような会社にも元請け依頼が来てました。なので、その時期には演出経験が足りなくても『やりたいです!』って言えばできました。そんな感じで某社で演出デビューさせてもらったのですが、そこはなんというかやる気のない駄目な会社で「ここではダメだ!」と、いろんな会社に『仕事ください』って営業メールしてたら、運良くテレコム・アニメーションが拾ってくれたんです。どこの馬の骨かわからないけど演出経験があるっぽいからやってもらおう、くらいじゃないですかね。演出デビューはテレビシリーズ『無敵看板娘』(06年)になります。

1411_ahoboy_abe48.jpgアニメーター募集プロジェクト「ABE48」。

 今は更新しなくなっちゃいましたけど、主に作画の話をしていた個人ブログ『あんていなふあんていダイアリー』で、『あのアホボーイが演出デビューするらしいぞ!』みたいなことを取り上げてくれて、『これはちょっと頑張らなきゃいけないのかな』って。周りの人が期待感というかハードルを高く設定してきたのもあって、『ヤバイ!頑張らなきゃ!』みたいなのもありました。最近でこそ環境のいい会社で(アニメ制作にあたっての)人集めとかは任せちゃうこともあるんですけど、当時は何のツテもなかったんで自分で環境を整えないといけなくて……知り合いを集めたりとかネットで人を募集したりとかしてました。08年に動画マン募集のために実施した『ABE48』(AhoBoy Entertainment 48/アニメーター募集プロジェクト)は、一緒にやった雨宮哲さんがノリノリだったんですけど、当時AKB48がマイナーだった頃にあんな名前をつけてたのが面白いなって」

 池畠さんの演出作品に佐藤利幸さんや山岸さんなども参加する一方で、「ABE48」には新たな才能が集うことになる。合格者は小嶋慶祐さん、犬マルさん、吉邉尚希さんなど計6名となった。小嶋さんは『エアーマンが倒せない OPアニメ風』、 犬マルさんは『ダッポンダーV』と、自主制作でも話題になっていた。吉邉さんは現在は神風動画に所属し、テレビシリーズ『ジョジョの奇妙な冒険』のオープニング(2部および3部)監督などで活躍している。小嶋さんはガイナックスで動画・原画を経て、現在新進気鋭の作画監督として活躍中だ。テレビシリーズ『ゆゆ式』では、池畠さんと演出・作監でコンビを組んで仕事をしている。

 そしていよいよ、池畠さんに『ロボットガールズZ』で監督デビューの機会が到来する。『ロボットガールズZ』は、『マジンガーZ』など永井豪さんの一連のロボットアニメ作品を少女キャラ化するプロジェクトとして始まったものだ。

池畠「前にお世話になった人が会社を設立して『東映アニメーション(以下、東映)から下請けの仕事が来てるけどやらない?』ってことでPVを何本か手伝ってるうちに『ロボットガールズZ』のPVもやったら、監督もやる流れになりました。東映は外部の人はあまり使わずに主要スタッフは社内で揃えるガラパゴス的なイメージがあったので、まさか東映の作品で監督をやる日が来るとは思ってませんでした。ようやく代表作ができてうれしくて、結構自分の中では転機になってます。まだ永井豪さんには会ってませんが、僕の中の永井イズムを詰め込んでますので。続きを作れたらいいですね。

 当時の自分の自主制作作品を見ると、今でも面白いというか『当時は、なんでこんなセンスがあったんだ!』『なんで今これを発揮できないんだ!』って思うことが多くて歯がゆいです。打ち合わせでも『こっちのほうが面白いじゃないですか』って言っても周りが止めてくるんですが、面白い方向に転がせすぎると話が破綻するのがわかってるんで、僕の中ではわりとセーフな方向に転がしてるつもりなんですけどね……。『ロボットガールズZ』は原作がちゃんとあるわけじゃないので、(自分の案が)比較的通りやすかったですが。

 人の作品で、そんなに変なことをするつもりはないです。その場合、監督さんの意図に合わせてこなすようにしてます。自分のワガママを通しても誰も特しないからで、基本的にテレビを見てるお客さんのために仕事をやっているので。もちろんOKな環境ではムチャしますけども。ようやく監督的なものをちらほらできるようになってきて、自分のやってたことを発揮できるようになってはきましたけど。

 今思うと、学生時代から色々やってた人が今も色々やってて、BOX(部室)でテレビゲームやったりだけで何もしてなかった人はフリーターになってます。ある意味(大阪芸大は)究極のゆとり教育です。『アオイホノオ』で主人公・焔燃が作った作品に対して観客から無反応だった、とかみたいなのはなかったかな。上映会で自分の作品を流したらウケが良かったんで、みんなわりと自信満々になってた気がします。かなり自由な環境なんで、一生懸命やることやってた人は、そこそこの業績を挙げて出世してますね。当時から自分のレベルを知っても恐れずに作ってた人たちが、今みんな活躍してるんです。

 でもアニメ業界はつらいので入っても残る人が少ないから、僕の同期とか後輩でも入ってドロップアウトしちゃった人も多いんですよ。庵野(秀明)さん、赤井(孝美)さん、山賀さんみたいに、学生時代に華々しくデビューしてそのまま行っちゃうような人みたいにうまくいかなくて。僕のキャリアの積み方はなるようにしかならないので、参考になるかどうかですが、アニメ業界には『なるようになる』と思って入ってきたほうがいいです。口約束で契約書を交わすとかないですから、ある意味アピールしたもん勝ちなとこがあります。自己アピールさえしとけば、誰かが拾ってくれるはず」

 それなりの苦労も垣間見えるものの、池畠さんは学生時代のノリのまま、軽やかにアニメ業界の中で乗り切ってきた。学生時代に自主制作を行ってから業界に関わることになるパターンでも、ここまで面白い事例はなかなか見られない。今後も、池畠監督やその周辺には注目しておきたい。
(取材・文/真狩祐志)

■博史池畠(ひろし・いけはた)
大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業後、アニメ業界入り。現在はさまざまな作品の監督・演出・絵コンテを手がける。監督としての代表作は『ロボットガールズZ』。「アホボーイ」名義で自主制作アニメ活動も行っており、「CGアニメコンテスト」で外伝大賞や会場賞を受賞している。

■『ロボットガールズZ』
http://www.robot-girlsz.com/

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