Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第20回

押井守でも『攻殻機動隊』の世界観は壊せなかった……? 日本を代表するSFマンガが切り開いた道

 まず、主人公・草薙素子が所属する公安2課が活動する時、隊員それぞれが脳をつなげて会話するのだが、これは携帯電話を知っていると非常に理解がしやすい。

 また、「情報の海で発生した生命体」を自称するキャラクター『人形使い』も、インターネットが盛んな現代ならば、なんとなく理解することができる。

 しかし1989年に、この世界を構築していたのは、とんでもない事なのだ。まさにオーパーツ(時代にまったくそぐわない遺物)的な作品だと思う。

『攻殻機動隊』は、1995年に劇場アニメとして公開された。監督は押井守だった。押井守と言えば、『うる星やつら』『パトレイバー』などのアニメ監督として、当時非常に話題だった。僕も好きな監督だったので、それはもう楽しみで、基本的に映画館に行かない主義なのに、先行上映会に並んで見たほどだ。

 しかし、アニメ『版攻殻機動隊』を見た後に抱いたのは、

「すごいけど、結構そのまんまだな」

という煮え切らない感想だった。

 最高レベルのスタッフが作り上げた世界は確かにすばらしかった。『マトリックス』など、この世界にもろに影響を受けている作品も多い。映画『ブレードランナー』は映画の未来感を完全に塗り替えたが、『攻殻機動隊』もそこまではいかないまでも、後世にかなり強い影響を与えた作品だと思う。(余談だが、年下の女性にオススメの映画作品を聞かれ『ブレードランナー』を紹介したところ、「結構ありふれた作品ですね」と言われたことがある。「最近の綺麗で豊かになっていく未来じゃなくて、ダークで崩壊しつつあるカオスな未来……っていう映画の世界観は『ブレードランナー』からはじまってるから!! 原点的作品だから!!」と熱弁しそうになったが、気持ち悪がられるに違いないので笑顔で「そうかなあ?」と言っておいた。)

 そんなに出来のよい作品なのになんで、「そのまんま」と思ったかというと、それはストーリーにある。そもそも押井守監督は、作品をぶち壊すイメージが強い人だった。『うる星やつら』のテレビアニメでは主人公諸星あたるのお母さんが街を徘徊するという意味の分からない回があったし、僕の一番好きな作品である『パトレイバー2』では、巨大ロボットアニメなのに、肝心なロボットが最後のほうまでほとんど出てこない。

 そういう原作レイパーな監督のイメージがあったのだが、『攻殻機動隊』に関しては、原作にとても近かったのだ。人形使いのストーリーを中心に、各話から抜き取ったエピソードを継ぎ足した感じ。違った点といえば、草薙素子の性格が原作よりアンニュイに描かれていたり、フチコマ(主人公たちが乗る多脚戦車)が登場しなかったりという、微変化だった。

 ちなみに押井版の『攻殻機動隊』の続編『イノセンス』は、『攻殻機動隊』の6話目『ROBOT RONDO』をベースに作られている。こちらもかなり原作に近いストーリーだ。押井守でも、士郎正宗の作っている世界観は壊せない、もしくは壊すのをためらうのだな、と思ったものである。

 このコーナーで紹介する作品の中には懐かしさを楽しむ物もあるが、攻殻機動隊に関しては、20年以上経っても現代の作品として十分に読むことができる。古い作品だからと敬遠していた人は是非、Kindleでダウンロードして読んでもらいたい。

 原作では2話目の時代が、2029年4月10日に設定されている。もう、15年を切っている。意外と近い未来になっているのだ。

 それまでに義体化技術(脳以外を機械化する技術。サイボーグ化)が本当にできたら、かっこよくなりたいんで、貯金を始めようかと思っている次第である。

●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/

攻殻機動隊(1)

攻殻機動隊(1)

今読むと理解しまくれます!

押井守でも『攻殻機動隊』の世界観は壊せなかった……? 日本を代表するSFマンガが切り開いた道のページです。おたぽるは、人気連載漫画マンガ&ラノベ作品レビュー連載の最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!