Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第20回

押井守でも『攻殻機動隊』の世界観は壊せなかった……? 日本を代表するSFマンガが切り開いた道

2014.11.26

―今から30年前以上前、そう僕らが子どもだったあの頃に読みふけったマンガたちを、みなさんは覚えていますか? ここでは、電子書籍で蘇るあの名作を、振り返っていきましょう!

(イラスト/村田らむ)

『攻殻機動隊』は日本を代表するSF作品のひとつである。

 初めて読んだのは「ヤングマガジン海賊版」(講談社)に掲載された時で、1989年。高校生の時だった。当時の高校生は今の高校生より、“SF成分”が強かったと思う。

 星新一か小松左京から入って、筒井康隆、山田正紀、平井和正あたりを読み、そのまま海外に流れて、ロバート・A・ハインラインだのジェイムズ・ティプトリー・Jr.だのをザクザク読みあさる。マンガでは大友克洋の『AKIRA』……と見せかけて、『童夢』をこれ見よがしに読んでみたり。

「俺ってこんな難しい本読んじゃって特別~!!」

なんて思っていたけれど、実に一般的な高校生のひとりだった。もちろんSF作品に通じていても、まったくモテなかったけど……。『攻殻機動隊』は、そんな時分に読んだ作品である。SFキッズたちにはたまらない作品だったのだ。

『攻殻機動隊』の作者である士郎正宗の作品は、とにかく情報量が多い。コマ割りも細かいし、セリフも多い。そして欄外にも補足説明がギシッっと詰まっている。まずは1回サラッと読んでなんとか大筋を理解する。そして補足説明を読んだ後に、2回目を読む。そして、それを踏まえて3回目を読んでなんとか読破する……のが、一般的な氏の作品の読み方ではないだろうか。

 ただ、それで全部が理解できたわけではない。説明が書かれていないひとコマひとコマにも、意味があるからだ。例えば銃器についても、銃の種類、弾の種類など、基礎知識があったほうがより理解が深まる。

「2人単位(ツーマンセル)で2丁下げでもジャムが怖い?」
「3と1/2バレルのセブロ・スナブで25ヤード12発3秒ピンヘッドできるって情報は正しい?」

なんて会話が、さらさら出てくるのだ。何を言っているか理解するだけで大変なのである。

 久しぶりに読んで、

「想像よりスイスイと読むことができた」

と思った。もちろん当時、何度も読んだし、映画版なども見ているので、下地があるから読みやすくなっている……と考えることもできるのだが、それだけじゃない気がする。体感として理解できるようになっているのだ。

『攻殻機動隊』のオープニングは、

『企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても 国家や民族が消えてなくなる程 情報化されていない近未来』

というナレーションで始まる。

「ああ、よくある感じだよね~」

と思うかもしれない。ただ、この作品が作られたのは、1989年なのだ。商用でのインターネットは開発されてたが、一般的にはまだまだまったく使われていなかった。

 そしてその頃には、まだ携帯電話も全然普及していない。

 秋元康作詞の『ポケベルが鳴らなくて』が流行ったのが1993年。IT革命が流行語大賞に選ばれたのが2000年である。現実が『皆がネットでつながり、会話、文字情報、映像などを自由にやりとりできる世界』になってはじめて、『攻殻機動隊』の世界観を理解できるようになったのだ。

編集部オススメ記事

注目のインタビュー記事

人気記事ランキング